注文ごとにクリームを横からしぼり、お渡しします
注文ごとにクリームをしぼる。イタリアでは脇からクリームを入れて、立てておくという。けれど、塩月さんは横からクリームをしぼる。
「寝かせた状態で箱に入れたほうがボンボローニが崩れにくいので、横から入れることにしました」
ボンボローニのレシピを覚えたのは、お菓子作りを学ぶために渡ったイタリアだった。
2011年からシチリアのホテルレストランで2年、その後、北イタリアのホテルレストランで3年研鑽。
ボンボローニはイタリア全土で食べられているそうだが、はじめて見かけたのは修業をはじめたばかりの頃のシチリアのバールだった。バールで朝、お菓子のようなパンのような丸いものを食べるイタリア人を何人も見かけた。
「最初は『なんだろう』って食べずに見ているだけでした。はじめて食べたとき、おいしくて感動しました。ボンボローニはイタリア人の朝ごはんでした」
中身はカスタードとアプリコットジャムとチョコレートとラズベリーが定番。
「イタリア人はカスタードしか食べません。イタリアのカスタードはさっぱりしていて軽いんです。私もイタリアで覚えたレシピでカスタードを作っています」
2018年に帰国し、『スターバックス コーヒー ジャパン』に入社。スターバックス コーヒーが手がける『プリンチ』で惣菜やお菓子を作ったり、開発を担当。
ところが、仕事中ボンボローニが頭からはなれなかった。
「イタリアで料理の修業をした人なら誰でもボンボローニを知っているはず。なぜこんなにおいしいお菓子を作らないのだろうって思ってました」
かつて某リストランテが小さなボンボローニをドルチェに出していたらしい。けれど、ボンボローニを販売する店はなかったかもしれない。
ボンボローニ愛、イタリア菓子への思いが徐々に頭のなかで発酵。
2021年5月に『リートゥス』をオープン。
イタリア人が食べに来てくださるようになりました
塩月さんが作るボンボローニと「カンノーリ(900円)」を店先のイートインコーナーで食べるイタリア人が増えてきたそうだ。
カンノーリは小さな筒という意味。朝揚げた筒状の生地に、注文ごとにイタリア産リコッタチーズのクリームをつめ、シチリアはブロンテ産ピスタチオを添えて渡してくれる。
軽そうだが、かなりどっしりしている。女性なら1個食べるとお腹がいっぱいになるかも。
「エスプレッソを飲みながらカンノーリを食べた後、ボンボローニを食べるローマ人がいます」
塩月さんのカンノーリとボンボローニの虜になるリストランテのシェフが急増している。
わざわざ横浜から食べに来るシェフがいるかと思えば、塩月さんのカンノーリに刺激を受け、試作をはじめたシェフもいるそうな。
この日15時頃、若い男性2人が来店。お目当てのお菓子が完売と聞き、残念そうに帰っていった。2人が買いに来たのは「ババ(780円)」。ブリオッシュにラム酒たっぷりのシロップをひたしたお菓子だ。
「お酒をきかせているせいか、男性に人気が高いです」
塩月さんのババはラム酒の香りも味も半端ない。酒好きならぜひお試しを。
「レモンケーキ(600円)」もおいしかった。プーリア産レモンジャムと、ブロンテ産ピスタチオをあしらった秀作。
酸味が強いが、爽やかで、さっぱりしていて、しっとりしている。