流されそうになる心
「そのとき思い浮かんだのが元彼で、客観的に見たら私も同じ状態になっているのだ、と気が付きました。
相手は既婚者で、別居中がたとえ事実であっても堂々と付き合えるわけではない、そんな人を好きになってどうするのだ、と文字通り頭を抱えました。
でも話していると楽しいしどうしても惹かれてしまう、そこに既婚かどうかは無関係で、『彼氏もこんな気持ちだったのかな』と思うとまた胸が苦しくなって。
礼儀正しく線を引いて接してくれる彼だからこそ好意を持つこともわかっているのに、『このままでは本気になってしまう』と自分が向ける気持ちの大きさを実感しました。
会わないほうがいいのだろうと思う一方で『会わないのにメッセージのやり取りを続けて何になる』と言い訳する自分もいて、本当に苦しかったです。
結局会いたい気持ちに負けて当日は出かけたのですが、いざ顔を合わせると写真の通りで本当に好みの人、清潔感がありすぐ『好きだ』とはっきり思いました。
彼のほうも『送ってくれた写真のままだね、かわいい』と照れながら言ってくれて、でも歩くときはきちんと距離を取って、お店の個室に落ち着いたときも触れてくるようなことはなくて、そんな姿がまた、好きを加速させていきました。
何回もメッセージで話していたせいか話題はいろいろあってずっと盛り上がり、楽しかったです。
彼が『失恋の傷は癒えてきた?』と尋ねたとき、『あなたのおかげでだいぶ楽になった』と答えたら、『じゃあ、もう次に進める?』と真顔で聞かれて、息が止まりました。
今も覚えていますが、雰囲気がもうくっつく寸前のふたりって感じでかなり濃くなっていて、『うん』とうなずくのがこの場の正解、って直感でわかるのですよね。
でも、それをすると関係が進むことになる、次は肉体関係を避けられない、『不倫』という言葉が頭に浮かび、それがブレーキになりました。
『あなたが独身だったら……』と思ったままを口にしてしまい、彼が苦しそうな表情で顔を伏せた瞬間は、今も胸が痛いです」