読み聞かせは無理にしなくてよい

――お母様にはたくさん読み聞かせをしていただいたとのことですが、ヨシタケさんはお子さんに読み聞かせはされますか。

ヨシタケ:あまりしないんですよね(笑)。「絵本作家だから、読み聞かせするんでしょう」とよく言われるんですが……。

子どもに「読んで」と言われることもありますが、本の趣味が合わないし、文字数が多いと面倒くさい。

だから、はぐらかしたり、「え、その本じゃなくて、こっちはどう?」なんて交渉したりします。それはそれで、親子の会話になっているかなと。

必ずしも、間違えずにきれいに読むことだけが本の楽しみ方じゃないと思うんです。

読み聞かせが苦手なら、「表紙だけ見て、意見を言い合ってみようか」とかでもいい。親子で盛り上がればいいんじゃないかな。

――今の時代は情報が多くて、親も「~しなきゃいけない」みたいな頭でっかちになっている部分がありますね。

ヨシタケ:読み聞かせに正解はないと思います。

「~して当たり前」みたいな情報があふれてますが、得意ではない、好きでもないなら、親だからといって、無理に読み聞かせをする必要はないと思います。

本はあくまできっかけにすぎないから、お互いが我慢しなくていい方法を探ればいいんじゃないでしょうか。

たとえば、別の企画を提案してみるとか。そういう”企画力”のほうが大事だと思います。

これは僕個人の気持ちなんですが、たくさん読み聞かせをしてもらっていると、その内、だんだん自分のペースで読みたくなってくるんです。

本の良さには2種類があって、1つは読んでもらってコミュニケーションをとる楽しさ、もう一つは自分で好きなペースで読んで、一人だけの世界に入る楽しさ。読み方。

それぞれの良さを併せ持ったものができれば、一番いいと思います。

夢は変わってもいいということを子どもに伝えたい

――もし、自分のお子さんが「お父さんみたいな絵本作家になりたい!」と言ったら、どんなアドバイスをされますか?

©SHINSUKE YOSHITAKE/HAKUSENSHA

ヨシタケ:……「なれたらいいねぇ」って(笑)。「なれるよ」とは言えないですね。

絵本作家自体は、絵本を描けば誰でもなれます。でも、プロとして長持ちするかは別の話。そして、叶わない夢があるということを伝えるのも、親の役目だと思っています。

たとえば、プロとアマチュアの違い、自分の作ったものを楽しんでくれるのは3人だけなのか、あるいは3万人いるのか。

そういったところであれば、今の自分だったら教えてあげられる。僕が自分なりに考えて体験してきたことを伝え、できる範囲で応援したいと思います。

この「できる範囲」というところも大事だなと思いますね。

――「夢は叶わないこともある」と、子どもに伝えるというのは難しそうですね。

ヨシタケ:夢はそこに到達することだけが、正しいことではないと思っています。途中で目的が変わったり、「こんなことになるとは」と方向転換したりするのも楽しい。

人生の醍醐味だと思っています。

小さい頃の僕は、「目的を持たなきゃダメ」「絶対あきらめちゃダメ」といったことに苦しめられていたんです。だから、「大人って結構いい加減なんだよ」ってことを知りたかった。きっと、同じように苦しんでいる人もいるはず。

頑張って夢に到達する人もいれば、コロコロと軌道修正する人もいる。今はコレでも、翌日変わっていてもいい。

「どこかで決めなさい」というのは、自分自身が一番言われたくなかった言葉です。自分が生きてきた経験として、「無理に選ぶ必要はない」ということを、ちゃんと言える大人でありたいと思います。

夫婦で意見があわなくてギスギスした時に、「こういうときは子どものかわいい写真を見れば!」とか、自分を立て直す手段をもっておくのが大事なんだと思う。

それは人それぞれで、写真だったり、好きな人のTwitterだったり。探してないと見つからないので。

探していると、「自分はこういうものが好き」だということがわかったときに、自分を盛り上げ直すスキルにつながります。

――ヨシタケさんにとっての、自分を盛り上げるツールは何ですか?

ヨシタケ:僕は、紙とペンさえあればよいです。文章が好きな方はブログで残すだろうし、写真で残す人もいるでしょう。

どういう形で記録に残し、あとに役立てるか、その手法は人それぞれなんです。創作活動の根っこにあるものは、自分を楽しませるものだと思います。