100%再現できないからこそ、イラストで描く面白さがある

――ヨシタケさんは、何かを見たり考えたりしたとき、頭の中に絵が浮かぶのでしょうか。それとも、もう手が勝手に動くものなんでしょうか。

ヨシタケさんがいつも持ち歩いているイラストノート

ヨシタケ:両方ありますね。たとえば、道を歩いていて、すごく面白い髪型の人にすれ違ったとします。そうすると、気になって、色々考えるわけです。

「あの人、どうしてあの髪型でヨシとしたんだろう」「なんか実験に失敗しちゃったんじゃないか」「本人は決まっていると思っている」とか(笑)。それをイラストに描くと、ドラマを感じるわけです。

でも、あの髪型を見た瞬間の面白さは、残念ながらイラストでは描ききれないんです。情報が減ってしまうから。

それを、一番ちゃんと記録できるのは写真なんです。イラストだと減ってしまう。100%再現できないから、悔しいんです。

それで、せめて「これからどうしても受かるわけにはいかない面接に行くのかな」とか、そういう方を面白がることにしているんです。

前後や設定を面白がる。こうやってイラストで残していると、イラストにしたときに一番面白くなるものを探すようになるんです。

何で記録を残すかによって、残すべき面白さが違ってくるということを、イラストを描くことで、気付くようになりました。

そして、イラストで一番効果的な面白がらせ方があるのが、だんだん自分の中でわかってくる。

それがイラストを描き続けていて楽しいことの一つでもあります。「こうすると急におもしろくなった」とか「イラストにすると面白くないな」というズレも面白いところでもあります。

――作家としては、「これは、人は楽しいのか」という点は考えなくてはいけないんですよね。

ヨシタケ:それが一番の悩みなんです。世の中には天才がいて、みんなが好きなものを作ってすごい結果を出す人もいます。

僕は天才ではないので、「自分はこういうのが好きなんですけど」というものしか作れない。それがたまたま、面白いと言ってくださる方が沢山いて、僕は今ここに座っているわけです。

それはもう運でしかないなと思っている。だから今後、「それはわかんないな」という可能性もあると思います。

――最終的には自分を信じて作っていくしかないと?

ヨシタケ:ここ数年でやっとわかったんですけど、自分が「人に面白がってもらおう」と思っているものを人に見せて、「面白くない」と言われたときの恥ずかしさって半端ないんです(笑)。

「みんな、こういうもの好きでしょ」と思って見せて、「好きじゃない」と言われたら恥ずかしい。

最低限、「自分は面白い」というものが担保としてないと、受けなかった時に立ち直れないんです。受けなかった時もありますが、その時に「自分は面白いと思うんだけどな」という心の支えがないと、次のものが作れないんです。

プロとして続けていくためにも、自分を面白がらせること、最後まで自分が楽しめていたかということは大事。結果が出なかったとしても、自分なりの満足度ができていたかが大事ということが、ようやく最近わかってきました。

それは、作家という仕事で人を面白がらせるという場合、100%の成功率ではないわけです。失敗したときにどうするか。「自分が気に入っているか」というのは、そのとき用の保険だったりします。

「余裕のない自分」を見て安心してほしい

――そうすると、今回の展覧会では、ある意味ご自分を出しているとも言えますが、一言でいうと自分の何を展示していると思いますか。

ヨシタケ:独りよがりなところですね(笑)。自分のことで手いっぱいなんだなってところをわかってもらえればいいと思います。

人のために動ける人はすごいと思うのですが、僕みたいに、人のために動ける余裕のない人、自分自身を落ち込む状態から救い上げるのに精いっぱいな人っていっぱいいるんですよ。

――子育て中のお父さんお母さんもみんなそうですよね。

ヨシタケ:そうですね。僕は、自分を救いたくてしょうがないんです。そうしてできたものが、結果的に面白かったと言ってもらえれば、そんなにうれしいことはないです。

そして、「この人はこんなに余裕がないんだな」って(笑)。「こんなに余裕のない人でも絵本が描けるんだな」っていうメッセージになればと。それを若い頃の僕が見れば、すごく救われたと思います。

「自分のことしか考えていないんだな」ということが、今回の展示で見えてくれば、成功だと思っています。こういう方法論の人もいるという具体例を見せることで、「自分はどういう方法を探せばいいのか」というところにつながってくれればいい。

ひとつの特殊な例として、以下でも以上でもない見え方をしてくれればいいなと。展示を見て、「こういう人もいるんだ」って。

一つ一つの言葉を大切に、真剣に話してくれたヨシタケシンスケさん。小さなスペースに描き込まれた原画からは、ヨシタケさんの思いが伝わってきました。

毎日の育児で余裕のなくなっているお父さん、お母さんも、ヨシタケシンスケさんの絵本を子どもと一緒に開いて、のんびり眺めてみるのはいかがでしょうか。

MOE 40th Anniversary
島田ゆか 酒井駒子 ヒグチユウコ ヨシタケシンスケ なかやみわ 5人展

©YUKA SHIMADA/OJIGI BUNNY INC./KOMAKO SAKAI/ YUKO HIGUCHI/SHINSUKE YOSHITAKE/ MIWA NAKAYA/HAKUSENSHA

会期:2018年4月18日(水)〜5月7日(月)まで
会場:松屋銀座8階 イベントスクエア
時間:10:00〜20:00PM(入場は閉場の30分前まで。最終日17:00閉場)
入場料:一般800円、高校生600円、小中学生400円
問い合わせ:松屋銀座 03-3567-1211(大代表)

編集/ライター。パソコン週刊誌に15年ほど在籍後、フリーに。デジタル全般から、ゲーム、教育、グルメ、ホビー、文具まで幅広く探索中。デジタルネイティブな男子の母でもある。http://izumi-aikawa.strikingly.com/