濃厚で芳しいチーズの香りに悩殺される

日本で食べられているイタリア式のピッツァには、ナポリ風とローマ風がある。

ナポリ風ピッツァに使うチーズはモッツァレラだけ。

ローマ風はモッツァレラに加え、羊の乳で作ったペコリーノチーズが使われたりもする。

一方、藤原さんのピッツァは、昔もいまも3種類のチーズを併用。

複数の食材が盛られているが、チーズでほぼ隠れている。

つまり、それぐらいチーズの量が半端ないのだ。

窯に入れる前は3種類のチーズが分離しているが、熱で溶けて三位一体になり、香りも味も複雑で濃厚で、神々しいぐらいおいしくなる。

【トニーズピザ】 香りも風味も他とは別格。とにかく濃厚。トマトソースに入っているタマネギのつぶつぶ感が舌に心地よい

いまも原稿を書いていて、あの香りと味わいが恋しくてしかたがない。脳裏から離れない。

藤原さんが焼くピッツァは、ナポリ風でもローマ風でもない。まったく別ものだ。

【トニーズピザ】 代々木時代から使っているピッツァを焼く皿。使い込みすぎて穴が開いている。持ってくれたのは一番弟子のイ セホンさん

「次に来たときは納豆ピッツァか、キムチ納豆ピッツァを食べてよ。他所じゃ焼いてないから」

納豆とキムチが、3種類のチーズと出会うとどんな味に変貌するのか。

どんな味なのかまったく想像できないけれど、かなり愉しみ。

【トニーズピザ】 尊敬するケネディとツーショット。「ヘアスタイルはケネディのマネですか?」「そうだよ」だって

2024年4月、藤原さんは86歳になる。これからもピッツァ職人を続けてほしい。

代々木での創業以来、半世紀以上愛されてきたのだから。

【トニーズピザ】店舗情報

住所/東京都武蔵野市吉祥寺南町1-6-9

電話/0422-49-1021

営業時間/11:00~21:00(LO19:30)

定休日/月曜日

ピッツァは1人前935円~(すべて税込)、納豆ピッツァは990円、キムチ納豆は1045円。

ナポリタンやミートソースなどのパスタ(935円~)もある。

東京五輪開催前の3歳の時、亀戸天神の側にあった田久保精肉店のコロッケと出会い、食に目覚める。以来コロッケの買い食いに明け暮れる人生を謳歌。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』、『自家菜園のあるレストラン』、『一流シェフの味を10分で作る! 男の料理』などの他、『笠原将弘のおやつまみ』の企画・構成を担当。