
断ち切れない闇
後になって、「正直に言えば、俺もそんな気はしていた」と、彼氏は友梨さんに話したそうです。
「でも、まさかそこまでするなんて、普通は思わないですよね。
はっきり言って犯罪だし、自分がしたことだってわかったらそれこそ大問題になるわけだし」
ため息をついて友梨さんはそう言います。
その後、彼氏のほうから元カノに連絡をして会って話したいと伝え、待ち合わせをした公園で改めて合鍵を返してほしいと伝えたそうです。
「もう持ってない」と元カノは答えたそうで、それを証明する方法はなく、
「黙って俺の部屋に入ったら、不法侵入で警察に連絡する」
とだけ、彼氏はきっぱりと口にしたといいます。
「お前がやったんだろうなんて、言えないですよね。
絶対にしらを切ると思うし、証拠もないし。
自分のしていることが彼氏に効いているなんてわかったら、それこそ次は何をするかわからないと思いました」
部屋の鍵を替えるには大家さんの許可が必要なうえに高い出費にもなり、取れる手段といえば、取り付け式の補助錠を用意することくらいでした。
「ダミーの監視カメラも玄関に付けました。
これで、補助錠を壊してまでなかに入ったら通報しようと彼氏と話しましたね……」
結局、元カノと会った日から部屋の怪異は止まります。
これが何よりの証拠にはなるけれど、だからといって元カノの「犯行」を立証することはできず、暗い気持ちのままで、彼氏は部屋で過ごしているそうです。
「いま、引っ越しの準備をしています。
でも、それだって、元カノはどこかで見ているでしょうね」
確信に近いその不安は、元カノの侵入を防げたとしても今度もずっとつきまとわれる恐れは消えないからで、引っ越した先で何があるかもわかりません。
事が終わってからふたりが思い至ったのは、部屋に隠しカメラや盗聴器を仕込まれた可能性で、家具を移動して隅まで確認して何も出てこなかったけれど、やはり安心はできないのが、今のふたりの状態といえます。
闇は断ち切れないことを、友梨さんは感じています。
「何でこうなったのだろうって、彼氏が何回も言いました。
別れ方がまずかったのかって、でもあんな人ときれいに終わるなんて、無理じゃないですか。
向こうが諦めるのを待つしかないんですよね……」
本当に恐ろしいのは意味のわからない怪異ではなく、それができてしまう人間の闇なのだと、ふたりは身を縮めて生活しながら考えています。