続く怪異
「知らないうちに小さな地震があったとかポルターガイストとか、彼氏といろんな可能性について話しました。
おかしいなと思ったのは、部屋のなかで移動しているのはその写真立てだけで、地震ならほかのものも落ちたりしますよね?
なぜこれなのかって、彼氏も首をかしげていたのですが……」
自分の部屋で起こっている怪異なら彼氏も真剣に考えていて、しばらくは戸締まりなど厳重にして寝ていたそうです。
たとえば、このほかにも部屋に何かの気配がするとか金縛りにあうとか、異常なことがあれば、彼氏は自分のところに来ていたかもしれませんと友梨さんは振り返ります。
そんな状況はなく、ただ「写真立てが勝手に動く」現象だけが続き、帰宅すると真っ先にその居場所を確認するようになった彼氏は「落ち着かない」と言いながらも、部屋で過ごしていました。
こんなことが起こる理由について、彼氏のほうは「わからない」と繰り返し、そのとき友梨さんが胸にちらりと湧いた一つの可能性を伝えなかったのは、「あり得ない」と思う気持ちのほうが強かったからでした。
隠せなくなった可能性
そんなある日のこと。
「本当におかしいぞ。
どうすればいいんだ、これ」
と取り乱した声で電話がかかってきたとき、友梨さんは退社の準備をしているところで、彼氏の怯える声に驚いたといいます。
「どうしたの!?」
と尋ねると、
「写真立てが、あれが。
落ちてるんだ……」
動揺で揺れている彼氏の言葉に、「背筋がぞっとしました」と友梨さんは身をすくめました。
すぐ行くからと言って電話を切り、会社を飛び出して、友梨さんは彼氏が住むアパートへと向かいます。
部屋に入ると、顔色の悪い彼氏にふたたび驚きながら友梨さんが目にしたものは、確かにテレビボードに並んでいたはずのそれが、床に転がっている姿でした。
「どういうことなの……?」
相変わらず異常はこれだけで、どう考えても人の手によって動かされたのだという確信が友梨さんのなかに湧き、彼氏を振り返ります。
「あのね」
勇気を出して言葉をかけると、彼氏が怯えた目のままで自分を見返すのがわかりました。
「これ、元カノさんじゃないの?」
そう言うと、彼氏がぐっと息を詰めたといいます。
「そんな……」
「合鍵のこと、うやむやのままじゃない?」
友梨さんがそう続けたのは、以前聞いた元カノとの別れ際の話で、「この部屋の合鍵をかたくなに渡さなかった」その様子が、この怪異の正体ではという可能性をずっと持っていました。
「あり得ないだろ」
そんなこと、と言う彼氏に、
「私もそう思ったから黙っていたけど。
でも、それ以外に考えられないよ」
と、友梨さんは声を落として返しました。