本物よりも精巧!? 1/12スケールのお菓子や雑貨たち
パリパリとしたデニッシュの食感に、夏の蚊取り線香の匂い、お弁当箱に全てのおかずを詰めた達成感、そしておしゃれな店を訪れた時の胸のときめき……。
何気ない日々のシアワセな瞬間を思い起こす、多数のミニチュアアート。そんな作品に出会える、アーティスト・田中智氏の個展「田中智 ミニチュアワールド『Face to Face もっとそばに』」が銀座の「ポーラ ミュージアム アネックス」にて5月27日(日)まで開催されている。
初日にも関わらず、開場する前からビルのエレベーター前に長蛇の列ができるほどの人気である。早速、会場内は作品を真剣に見つめる人で賑わいをみせていた。
会場内にはこれまで作られた約80点の作品がテーマごとに分けられて並んでいる。一般的な展示と比べて、子どもでも上から覗き込めるように展示の台は低めの位置に設置されており、LDE照明を用いた明るい空間の中で、作品の細部までじっくり観察できる。
誰もが驚くのは作品を拡大しても、全く違和感がないほど精巧に作り込まれていることだろう。おしゃれなセレクトショップやスイーツを模した作品の人気が高いようで、あちこちから「かわいい」「美味しそう」などの感想が聞こえてくる。
さらに会場の一角には、来場者が作品のサイズを実感できるスポットもある。会場全体は撮影も可能でSNSでのシェアも歓迎とのこと。はじめて田中氏の作品を知って興味を持った方も存分に楽しめる工夫でいっぱいだ。
作品制作のきっかけはドールハウス
意外にも田中氏のファンはミニチュアマニアばかりでなく、TwitterなどのSNSを通じて純粋に作品のビジュアルイメージにひかれ、作品のファンになったという人が多いという。
田中氏はトラックの運転手から作家に転身した、異色の経歴の持ち主でもある。ある日、ドールハウスを購入した際に欲しいミニチュアの小物が売っていなかったため、自作したことがきっかけだという。
作り方などを調べるうちに、ミニチュア作りなどで生計を立てる人がいることを知って本格的に制作を始めた。美大には通わなかったが水彩画を描いていたそうで、対象物をそっくり真似て描いていた経験が生かされているそうだ。
ミニチュアは、ドールハウスの中に置くための小物として作られてきた歴史がある。ドールハウスとは実物の12分の1スケールの家の模型。ここ10年ほどでさまざまな作家がバラエティに富んだ作品を生み出したことにより、アートとして市民権を獲得しつつある。
田中氏が作品制作の工程上で最も大切にしているのは、資料の選定と素材をどう作るか構想する準備段階だそう。樹脂粘土、プラスチック、紙、木など多くの選択肢の中から材料に最も適切なものをピックアップして時には混合して使用する。
その工程を経た後に制作にかかる時間は通常の小物なら一週間、ドールハウスは数ヶ月、もっと大きなものでは一年程とのこと。今回の個展では田中氏が実際に使っている様子や、制作過程についても知ることができる。
あえて自分でテーマを決めず、依頼やほかの人からの要望でテーマを決めることが多いという田中氏。それには作者の主観が入らないようにしたいという配慮もあるそう。
田中氏の作品は女性からの人気が高いが、ジオラマ的魅力から男性のファンも少なからずいるという話も伺った。また本人が主催するミニチュア教室の生徒は、10代から70代までと幅広い。
本物そっくりに複製された作品が普遍的な美を放つのは、田中氏の徹底的なプロフェッショナル精神によるものと言っても過言ではないだろう。