差別にならぶ漫画描写のタブーといえば、カニバリズム(人肉食)が話題になることも多い。有名なところでは1996年に週刊ヤングサンデー連載中の『マイナス』(作:沖さやか)が人肉食描写によって雑誌ごと回収となっている。主人公のさゆりは過去のトラウマにより“他人に嫌われないためなら何でもやる”という歪んだ設定で、そんな人格と女教師という職業のギャップが異彩を放つ作品だった。

問題となったのはさゆりが山で遭難するエピソードで、「重傷を負った少女を助けない」「それどころか動物を捕らえるワナの“エサ”として少女を使う」「死んでしまった少女を焚き火で焼いて食べる」……など問題描写のオンパレード。さすがにこれは出版元の小学館も擁護できるはずなく、雑誌回収のうえに単行本未収録とされた。後にこのエピソードまで収録した完全版コミックスが他社から出ており、今でも読むことは可能だ。

 

古くは1970年、週刊少年マガジンの連載作『アシュラ』(作:ジョージ秋山)も同様に人肉食が問題となり、未成年者の購入が禁止される騒ぎとなった。

平安末期の飢饉時代を舞台にしているだけあって、『マイナス』ほど人肉食のインパクトはないが、描写全体が過酷かつ過激で、当時は各方面から激しい非難を浴びていたという。その一方で作品のテーマ性は非常に深く、連載から40年以上が過ぎた2012年にアニメ映画化を果たしている。

漫画やアニメで“人肉食”をどこまで表現して良いのかは非常に難しい問題だと思う。アニメ版『ONE PIECE』(作:尾田栄一郎)ではサンジの恩人が飢えて自分の足を食べる原作シーンが別描写に差し替えられ、ファンからの反応は賛否さまざまだ。
 

ほかに少年ジャンプ作品に限っても、たとえば『封神演義』(作:藤崎竜)では、あるキャラクターが自分の息子を材料にした肉料理を食べさせられるショッキングなシーンが描かれたことがある。

また、『キン肉マン』(作:ゆでたまご)では強豪超人のラーメンマンが対戦相手を真っ二つに引き裂いて殺害する原作シーンがあったが、アニメ版では“対戦相手をリング上でラーメンにして食べてしまう”描写に変更された。「ラーメンにするなら人間(超人だが)を食べても良いのか?」「むしろ原作描写よりも残虐になっていないか?」など疑問に感じた視聴者も多いようだが、特にこれといって謝罪・回収騒ぎには至っていない。