相続登記が義務化された理由は?

では、なぜ国は相続登記を義務化したのでしょうか。

日本は超少子高齢社会。親と同居する世帯も減り、子どもたちが独自に家を構えると、親が住んでいた家は必然的に空き家になります。

空き家を売却しようとすると自分が所有者であることを証明するために相続登記をする必要があります。しかし、売却できる不動産であればいいのですが、特に地方では、なかなか難しい物件もあります。そうなるとわざわざ登記費用を払ってまで、売れない家に相続登記だけをする必要性を感じなかったのでしょう。

ところが、登記というのはその不動産の持ち主が誰かということをすぐに把握できるようにするという機能もあります。

相続されても登記されない不動産が増え続けた結果、気がつけば日本の国土のうち、いわゆる「持ち主不明」の土地が、なんと九州と同じ面積くらいになってしまいました。持ち主が不明だと、震災等での再開発やインフラ工事の際に誰に連絡を取っていいのか分かりません。

所有者に無断で工事することはできないため、そうした行政の公共事業や民間企業の事業活動が頓挫してしまいます。

そのような理由で長年「申請主義」で相続した人の意思に任されていた不動産登記が、2024年4月1日から相続登記については義務化されることになりました。

過去に相続した不動産も対象に

なお、相続登記が義務化されるのは、2024年4月以降に相続した不動産だけではありません。それ以前に相続したものも対象となり、放置すれば過料が科せられる恐れがあるため注意が必要です。

もし、不動産を引き継ぐ人を明記した遺言書があれば、その人が相続登記をしないといけません。一方で遺言書がなければ、法定相続して現在の相続人全員で共有するか、相続人全員で遺産分割協議をして誰の所有とするかを決めなければなりません。

自分は関係ないなんて思わず、改めて現状を確認していただければと思います。

相続人がなんと72人に!実際にあった事例

私が関わった中で、2011年に大変な思いをされた売主さんがいます。

夫が亡くなり、住んでいる家を売却したいと不動産会社からご相談を受けました。資料を調べていくと、土地と建物に加え土地に面した私道の一部についても所有権があることがわかりました。

ところが土地と建物はきちんと夫名義だったのに、この私道の持分の所有権が相続登記されていなかったのです。驚くことに、亡くなられた夫の曽祖父の名義のままになっていました。私道の持分がなければ、道路までの利用する権利がないため、買主の融資の承認がおりないでしょう。早急に、私道の持分についても相続登記が必要でした。

亡くなられた夫の曽祖父名義のままということは、義曽祖父の時、義祖父、義父の時と計3回の相続手続きの中で登記が漏れていたことになります。このご夫婦にはお子さんはおらず、夫は8人兄弟。さかのぼって、曽祖父からの相続人全員との分割協議が必要になってしまいました。しかも曽祖父は明治生まれ。この段階で、私は絶望感にさいなまれました。子沢山な時代だったからです。

戸籍を追っていくこと、3ヶ月ちょっと。その時点での相続人全員が、特定されました。その人数、なんと72名。最終的に依頼者が自己名義にするためには、依頼者はこの72人全員から同意を得て、なおかつ遺産分割協議書に実印の押印と印鑑証明書をもらう必要があります。

さらに調査を進めていくと、住民登録が職権消除(居住の実態が無い等の理由で削除)されている人が3名います。また住民登録はあるものの、郵便物が返送されてきてしまう人もいます。ご兄弟も何年も連絡を取っていないとのこと。誰も行方は知らないようでした。

連絡がとれないということは、依頼者が不在者財産管理人(本人に代わって財産を管理する権限を裁判所から与えられた人)を選任するよう裁判所に申立てをしなきゃいけないのか……と気が遠くなります。