
「司法書士は見た! 怖~い相続事件簿」シリーズでは、相続に詳しい司法書士が、現場での経験も交えながら、よくある相続トラブルについて解説します。
今回のテーマは、不動産を相続したときにする登記についてです。
2024年4月から義務化された相続登記ですが、しないまま放置しているとどうなるか。質問をもとに考えていきます。
60代男性から、こんな質問をいただきました。
田舎で暮らす親が亡くなって実家を相続することになりました。自分は家を持っているし、田舎に帰るつもりはありません。不動産会社に相談してみたら、なかなか買い手も見つかりそうにないようです。
相続の登記をするのも費用ってかかりますよね?登記しなくても特に問題ないようなら、ただお金がかかるだけなので、このまましばらく放置しておこうと思っています。この考えって間違っていますか?
2024年4月から相続登記が義務づけられたこと、ご存じですか?
親御さんのお家を相続されて、登記(不動産の名義変更)するかどうか悩んでいらっしゃるのですね。
実は2024年4月から、相続登記が義務化されたんです。これからは登記をしなければ、10万円以下の過料を科される可能性があります。
また、放置すると手続きがどんどん複雑になって大変な思いをするおそれもあります。親御さんのお家など大切な不動産を相続された場合は、早めに登記手続きを済ませることが非常に重要です。
そもそも登記は、申請主義というルールがとられています。これは「自分がこの不動産の名義人である」と第三者に主張したければ自分で登記申請してくださいね、という意味です。つまり、登記するかどうかは本人の意思に任せるというルールでした。
しかし、相続登記については相続人の意思に任せていると、今回の相談者のように考えて、登記を放置する人がたくさんいました。義務化されたことで、このような考え方は通用しなくなります。
相続した不動産の登記が後回しにされがちな理由
相続登記がこれまで放置されてきた理由、そして国が相続登記を義務化した理由を詳しく説明します。
家を購入する際には、金融機関(銀行など)からローンを組むことが一般的です。金融機関はお金を貸す際に、抵当権(住宅ローンの支払いができなくなったとき、その家と土地を取り上げることができる権利)を設定するため、必ず借り手にその不動産に登記するよう求めます。そのため、購入した不動産の登記がされないことはまずありません。
しかし、相続で取得した不動産は状況が違います。売却する予定の無い相続不動産については、
・ すでに住んでいて生活に支障はないので、わざわざ登記する必要性を感じない
・ 登記には司法書士への依頼費や登録免許税がかかるため、後回しにしてしまう
・ 近くに司法書士がいないので、手続きが面倒に感じる
・ 売る予定がないから登記しなくても問題ないと思っている
・ 相続登記しなくてもこれといったペナルティがない
ために、相続登記をしないまま放置してしまうケースが多くありました。