ビルの地下には、屋号にふさわしい荘厳な空間が広がっていた。上野の「喫茶古城」である。

騎士が描かれたステンドグラスを仰ぎ見ながら降りていくと、貴婦人が出迎えてくれた。その奥には、厳粛で畏敬の念を抱く雰囲気がただよっていた。

装飾が施された太い梁。シックで巨大なシャンデリア。柱や壁面には大理石が多用されているようだった。

まさに「ザ・昭和な喫茶店」

「私の父、松井省三が古城を創業しました」松井京子さんが教えてくれた。

【喫茶 古城】 京子さんはホール担当。祥訓さんは厨房担当だそうだ

創業は東京オリンピックの頃。もちろん前々回のオリンピックではない。1964年に開かれた東京オリンピックだ。つまり、この店は、人間にたとえるとほぼ還暦。

【喫茶 古城】 古城を創造し、創業した松井省三さん。サドルシューズとニッカポッカ。ゴルファーを思わせる装い

厨房近くのテーブルに座り、京子さんの話を聞いていると、ご主人の松井祥訓さんが省三さんの写真を持ってきてくれた。写真館で撮ったと思われる、ベレー帽姿のモノクロ写真だった。

「結婚前に撮ったものだと思います。父は絵画や写真が大好きな人でした」

画家のような雰囲気だが、そうではない。古城の近くで洋食屋を経営していたという。

古城には、ヨーロッパの、どこかの城や洋館のような雰囲気がただよっている。けれど、「父には渡航歴はない」と京子さんは断言する。ヨーロッパの地を踏んでいないからこそ、憧れのヨーロッパの古城を上野に復元したのだろうか。

「ステンドグラスもシャンデリアも梁の飾りも父がデザインし、日本の職人につくってもらいました」