衝撃のビジュアル! 初期の名作『おかっぱ・かっぱ』『口笛が聞こえる』
――ご自身がこれまで演出されたエピソードでお気に入りの作品は?
高木: 初期の『おかっぱ・かっぱ』(90年/第37話)ですね。まる子がお母さんに髪を思っていた以上に切られてしまうお話で、まる子の子供ならではの哀しみが出ているんですけど、テレビを観ている人たちは笑えるんです。そのあたりの塩梅が面白い作品なので、気に入っていますね。
――当事者にとっては一大事でも、人のドタバタは時に笑えますからね。
高木: それともうひとつ。これは若干毛色が違うんですけど、『口笛が聞こえる』(91年/第62話)。お母さんがまる子にお父さんとのなれ初めを語る話で、まる子はただお母さんの話を聞いているだけなんですが、結構大部分を占める回想シーンがいつものまる子ワールドとキャラクターも世界観も違うんです。
美化しているわけではないけれど、まる子やお母さんの頭の中のイメージを画にしているからひろしもすごくハンサムで、お母さんもいわゆる「モガ」と言われていたモダンガールのスタイル。ちょっとレトロな雰囲気もある作品なんです。
これを観ればひろしの原点も分かりますし、今回の25年を振り返るコーナーではいまお話しした2作の映像も少し入っているので、まる子やそのほかのキャラクターの変化も感じてもらえると思います。
小学三年生の1年を25年間! これだけ続けてこられた訳
――『ちびまる子ちゃん』が25年も愛され続けてきた要因はどこにあると思われますか?
高木: これも月並みな言い方になってしまいますけど、親近感があるからじゃないですかね。少し変わったキャラもいますけど、基本的にはみんな、我々の側にいてもおかしくない普通の人間で、特にまる子やひろしはA級でもC級でもない、どちらにも突き抜けていないところが身近に感じられるから、愛されているような気がします。
そのあたりは直後に放送される『サザエさん』とも共通している部分、異なる部分がありますので、意識はしています。
――25年の間に、家の中の様子も変わっていたりしますか?
高木: 家の中はほとんど変わってないですね。『ちびまる子ちゃん』は小学三年生のまる子たちの話で、現実的なことを言うと、その小学三年生の世界を25年間ループで続けているわけです。4月からその1年の話が始まって、3月になるとまた元に戻るので、部屋の中の物が増えたりするのは都合が悪いんですよ。
ただ25年もやっていると、実際には完全な円で続けることはできないし、ちょっとずつ螺旋になっちゃってるんですけど、一応基本は元に戻すことが大前提だから、まる子たちの学校の一学期の始まりと三学期の終りの描写が難しいというか、結構微妙な塩梅なんです。リアルにやるとまる子たちが四年生に上がってしまうので、そこは毎年ごまかしながら進めているんですよね(笑)。
ループされる時間の中で、新鮮さを失わない「ちびまる子ちゃん」
なるほど! そこで一度リセットし、4月から新たなシリーズが始まるから、観る側も毎年フレッシュな気持ちで楽しめるのだ。
その一方でE-girlsが現在、主題歌の「おどるポンポコリン」を担当しているように、その時代その時代の息吹きも取り入れているから、普遍的なエピソードなのに古臭さを感じないのかも。
今回の『ちびまる子ちゃん アニメ25周年記念~旅は道連れ、苦あれば楽あり美味もありスペシャル』では、E-girlsのAmiちゃんが本人役で声優に初挑戦しているのも話題。番組冒頭でさくら家の人たちと番組の見どころを紹介しているので、そこも見逃せません。
いずれにしても、これを観れば『ちびまる子ちゃん』の25年が一目瞭然です!
■高木淳
1963年生まれ、東京都出身。
日本大学芸術学部映画学科で演出を学び、卒業後日本アニメーションに入社。 入社後は「世界名作劇場」シリーズの制作に携わる。 監督を務めた『うっかりペネロペ』は、2007年文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞を受賞。