『宮古島トライアスロン』 ©film voice inc
  

一方、総監督を務めた『宮古島トライアスロン』は、宮古島で1985年から続くトライアスロン大会に密着した。トライアスロン宮古島大会は、国内屈指のロング・ディスタンスレース。3キロの水泳から始まり、バイク155キロ、ラン42.195キロで競われる。国内では280ぐらいのトライアスロン大会があるが、その中でも人気が高いレースとして知られ、1700人程度の出場枠に倍近い3000人の応募があるほど。まず、それほどの歴史を刻んできたトライアスロン大会が存在することに驚かされる。鈴木監督も「僕自身も知らなくて。“こんな大会が行われているのか”と思いました」と言う。

今回、撮影チームが立ち会ったのは、節目となる30回大会。

トライアスロン専門誌「トライアスロン・ルミナ」の女性編集長、宮古島に移住して大会に挑んでいる整体師の夫婦、トライアスロンチームに所属する女子アスリートなど、さまざまなタイプの参加者のレースまでの日々を前半は追う。

「最終的に彼らに取材をお願いしたのですが、その過程でお会いしたほかの人も総じて嫌味がない。トライアスロンをする人はアクがないというか。自然体でいきいきとしている人が多い。彼らの人間性がひとつトライアスロンという競技の本質をひとつ映し出しているかなと思いました」。

作品の後編は、本番当日を迎えた大会に密着。先の登場人物のレースぶりをフォローしながら、トライアスロンレースの過酷さ、すばらしさ、美しさを臨場感のあるダイナミックな映像で伝える。

「レースの全体像を空から撮りましたし、水泳は海中から撮ってもいる。とにかくトライアスロンを全方位から撮れるようにカメラを用意して、適材適所に設置して最善の撮影ができるよう尽くしました。制限時間が13時間30分と1日がかりですから、もう大変(笑)。テレビ中継が難しいことがよくわかりました。ふつう追い続けられませんよ。おそらく、これほどトライアスロン大会をきちんと記録した映画は今までない、と自負しています」。

最後にすずき監督はこうメッセージを送る。

「宮古島のトライアスロンは“ストロングマン大会”とよばれ、他選手との戦いであると同時に、自分との戦いに挑むレースでもある。そういう意味で、敗者はいない。勝ち負けをこえて、自分自身と戦う人間の姿に触れてほしい」。

 

インドネシアで起きた100万人規模の大虐殺を、被害者側から見つめていく『ルック・オブ・サイレンス』

 

『ルック・オブ・サイレンス』 © Final Cut for Real Aps, Anonymous, Piraya Film AS, and Making Movies Oy 2014

最後に触れるのは『アクト・オブ・キリング』のジョシュア・オッペンハイマー監督の最新作となる『ルック・オブ・サイレンス』(初夏、シアター・イメージフォーラムほか全国順次公開)だ。

すでに大きな話題になっているようにこちらは、『アクト・オブ・キリング』の続編ともいうべき内容。今度はインドネシアで起きた100万人規模の大虐殺を被害者側から見つめていく。

作品の主人公となるのは大虐殺で兄が殺害された青年アディ。2003年、オッペンハイマー監督の撮影したある映像を目にして衝撃を受ける。それは虐殺をした加害者たちが、その殺害行為を誇らしげに語るインタビュー映像だった。2012年、意を決してアディはジョシュアに提案する。“自ら加害者と会ってみたい”と。自ら加害者に会い、その罪について問うアディ。一方、加害者たちが今も大きな力を持つ村で暮らすがゆえ、半世紀もの間、亡き子供への想いを封じ込めてきたアディの母親の堅く閉ざされてきた本心も解き放たれていく。加害者と向き合った被害者の二人の心に去来するものとは? その言葉にならない言葉が静かな衝撃となって胸に響くに違いない。