バリバリのトップセールスから専業主婦になって苦境に陥ったAさんのケース

中「自分の特性を生かした仕事で活躍していたAさんという女性がいます。ADHDならではの社交性が功を奏して、すぐに不動産の営業でバリバリ売り上げをあげていたのですが、結婚して生まれたお子さんが発達障害だったんですね。

それを機に、療育のために仕事を辞め、専業主婦になったのですが、家庭に入った途端、家事にも育児にもやる気が出なくなってしまった、と相談に来られました」

――それまでの生活とのギャップがありますよね。

中「ADHDの人に見られる“報酬遅延の障害”が、彼女の状態をまさに言い当てています。

この障害は、すぐに結果や報酬が得られないことが我慢できないということを意味するのですが、家事でも子育てでも、誰かにほめてもらうわけでもありませんし、すぐに結果が出るわけでもないし、時になんのためにやっているのかわからなくなることですよね。

言ってみれば報酬が遅延しまくるわけです」

――たしかに。すぐに売り上げにつながる仕事とは雲泥の差がありますね。

中「24時間ほぼすべて家族のために使って、へとへとになっている彼女に、“あなたらしい報酬が得られていない生活ですよね。

意外と仕事をした方が元気になるんじゃないですか“って言ったところ、最初は絶対無理と言っていましたが、ご自分でADHDのことを調べれば調べるほど、家事と子育てがいかに自分に向いていなかったかがわかったようで、働きはじめたんです」

――変化はありましたか?

中「めちゃくちゃいきいきして、表情も全然ちがうんです。子どもは今、小学生ですごく楽になった、ストレスが減った、と言っていました」

――よかったですね。「ママはこうあるべき」というイメージより、その人らしく生きることを優先させていいんですよね。

どんな問題も最初の一歩を踏み出すことが大事

中「また別の方でBさんという方は、体の弱い子どもの通院や入院の付き添いでてんてこ舞いになっていました。独身の時は仕事に没頭されていましたが、やはり子育てのために専業主婦になったんですね。

Bさんの場合、とにかく家がゴミ屋敷のようになっていて、一部屋のドアが開かなくなるほどだったそうです。最初に、“時間管理のために手帳を使いましょう“と言ったのですが、手帳を置くスペースがないとおっしゃるんです」

――ええ!

中「“ダイニングテーブルを置いたらどうですか?“と言ったら、”なだれが起きる“とおっしゃって。手始めに、物の置き場を決めるところから始めて、最初に子どもの薬といった一番大切なものを管理するために、ファイルを3種類用意してもらいました。

すると、整理整頓のコツが少しわかったようで、ゴミだらけだった部屋も、少しずつやれば片づくのかも、と言い出して、3日できれいにできたんです」

――物事には順序があることがわかったんですね!

中「そうやって自信がついたのか、どんな難題も、最初の小さなステップを踏み出すことで、解決できるんだとわかっていったようです。その後、お仕事に戻られて、ご活躍されているようですよ」

精神論は功を奏さない

中「Bさんに、“今まではどうやって難所をくぐり抜けてきたんですか?“とお聞きしたことがあるんです。彼女の答えは”やる気を出してやっていました“でした」

――やはり根性論なのですね。根性論は向き不向きがありますし、がんばれない時に味わう挫折感が大きいのでは、と思います。

中「忘れ物をする子どもも、同じことを言われがちですよね。“絶対忘れないようにする”“がんばる”というだけでは、まったく非論理的ですよね」

――でも、そういったことが普通に言われています。

中「子どもの方も、よくわからないなりに“がんばる!”と答えたりして、それができないと自分をダメだと思ってしまったり」

――子育てに関しても、根性論、精神論的なことを言われることが多いですよね。

中「そうですね。ふわっとしていながら、ママを苦しくさせるような表現が多いですよね」

――大切なのは、自分のADHD的な性質を受け入れてその人らしい子育てを手に入れることなのではないか、と思いました。そのための対処法が『もしかして、私、大人のADHD?』にはいろいろ載っていますよね。

中「少しでも、子育てに悩むママの参考になればと思っています」

――本日はお忙しいなか、どうもありがとうございました。