いろいろ考えていたら、 鼻血が出たんですよ、僕(笑)
――智彦を演じた染谷将太さんとのお芝居は、実際、 どんな感じで進んでいったんですか?
初めて一緒に撮ったシーンが、智彦に「 麻由子のことが好きなんだろう?」って聞かれた崇史が「 俺は麻由子のことが好きだ」って答える、 まさに友情が崩れるような大事なシーンだったんです。
――あそこがファースト・ショット?
そう、あの大事なシーンが一発目だったんですけど、 そのときの智彦の目が、もう俺(崇史) のことを信じていないという疑惑の眼差しと、 そうじゃないと言ってくれ! という哀願のようなものが入り混じった複雑なものになっていて。
なんか、その目を見ながら、いろいろ考えていたら、 鼻血が出たんですよ、僕(笑)。
たぶん、 熱が入り過ぎたんだと思います。 鼻血が出たことはすごく覚えてる。そんな経験、 いままでなかったので、 それぐらい智彦から影響を受けるものがあったんだと思います。
――先ほど、 麻由子と出会う前の智彦との接し方や一緒にいるときの感覚を自分 なりに考えたと言われましたが、 そういった考えは染谷さんと共有したんですか?
さっきも取材の席で久しぶりに会った染谷さんと話していたんです けど、現場でふたりでお芝居の話をすることはなかったです。
現場では、お芝居をした後に監督から「どうだった? どう思った?」って聞かれて、 僕たちが感想や感触を答える流れで。
その発言に対して、監督が「 じゃあ、その感覚で行こう」「それで間違っていなと思うので、 それを忘れないでいこう」とその都度言葉をくれる、 そういう撮り方をしていましたから。
――でも、 ふたりでお芝居のことについて密に話さなくてもいいという関係性は、先ほど言われた崇史と智彦との関係性に似ていますね。
別にそこは意識していなかったけれど、言われてみれば、 確かにそうですね。自然とそういう感じになっていました。
――麻由子を演じた吉岡里帆さんとお芝居をした印象は?
吉岡さんも染谷さんと一緒で、 ふたりでお芝居の話をすることはなかったけど、 彼女が演じた麻由子はある“秘密”を抱えた役ですよね。
でも、 その真実に気づいていないシーンの撮影では、 その表情が笑顔になったり、一緒にいるのに寂しそうになったり、 繊細に揺れ動くから、本当に見入っちゃって、一瞬、 言葉を忘れるようなときがありました。
崇史が麻由子を最初に問い詰めるシーンなんかは、 特にそんな感じだったような気がします。
――この作品ではパラレルで、まさに併行して描かれる「麻由子が崇史の恋人の世界」と「麻由子が智彦の恋人の世界」を、 それぞれカメラマンと助監督を変えて撮ったそうですが、 そのことはお芝居にもいい意味で影響はありました?
それはもちろんありました。 現場にいる人たちが違うわけですから、 それだけで新しい環境になります。
そういった見た目の違いもあるけれど、 カメラマンや助監督さんが違うだけで現場の雰囲気も少しずつ変わるので、いまはこっちの世界なんだなって、 連れていってもらえるような感覚がありました。
玉森自身も撮影しながら“パラレルワールド” を体験していた!?
――でも、劇中の崇史はずっとイライラしていましたね。
そうですね。はい。
――玉森さん自身は、1ヶ月半の撮影期間中はどんな心境でした?
撮影期間中は崇史である時間が長かったから、やっぱり辛いな~と思っていましたね。
大好きな親友を裏切ってしまう情けなさだったり、 それ以上に麻由子のことを好きになってしまう抑えられない衝動だったり、こんなにも簡単に友情を壊せて、 こんなにも簡単に愛が芽生えるのか?って思ったり。
崇史のことをそんな風にずっと考えているうちに、 自分はどっちだっけ? ということがどんどん分からなくなったし、 撮影前に思っていた俺はどうなるんだろう? 壊れちゃうんじゃないか? という思考にも実際なっていって。
迷っていたのもあるし、 崇史という人間にイライラしているときももちろんあったけれど、 あの1ヶ月半は濃すぎたし、 濃すぎて忘れることもあるんだなという、 初めての感覚も味わいました。
いや本当に、 あのとき何していたんだっけ?って、 断片的に記憶が飛んじゃっていたりして、 とても不思議な感覚でしたね。
――玉森さんも撮影しながら“パラレルワールド” を体験していたんじゃないでしょうか?
そうかもしれないですね(笑)。 自分もまた別の世界に行っていたのかもしれない。 そういう意味では、あの1ヶ月半はすごく面白かったです。
――自分がどうなるのか分からなくなるような濃い1ヶ月半を過ごされて、 クランクアップしたときには現実の世界にスッと戻ってくることは できたんですか?
いや、 終わった直後は本当に魂を抜き取られたみたいに何もやる気がしな くて。
“燃え尽き症候群”でしたっけ? まさにあれになったように何も気力が湧かないし、 張り詰めていたものがなくなったときの脱力感を初めて味わって。
それぐらいあの期間は濃かったんだと改めて思ったし、逆に、 これまでは一生懸命やっていたようで、その世界に入り込んで、 ここまで熱中してやったことがなかったんだなということも痛感し て。
クランクアップのときは“終わった~”という、 達成感とはまた違う感覚がありました。
―― その脱力した感じから社会復帰できたのは何がきっかけですか?
う~ん、時間じゃないですかね。時間と、 あとは賑やかなメンバーたちに囲まれて、 ちょっとずつパワーを取り戻していったんじゃないですかね。
――それではいまは、完全に社会復帰を?
はい、無事に戻ることができました(笑)。
――でも、完成した映画を観たときに、また、 あっちの世界に戻っちゃうなんてことは?
観ているときにちょっと震えて緊張しました。このとき、 こんなことがあったな、とか、あんなことを考えていたな、とか、 いろいろなことを思い出して。
もう終わったことだし、 観ているだけなのに、ヘンな緊張感があったんです。