3.「いつでも離婚できる」準備
筆者からは、「そんな旦那さん、これからも態度が悪くなるだけだから、一度別居したほうがいいよ」と彼女には伝えていました。
子どもを連れて別居できるだけの稼ぎが彼女にはあり、一度夫にも頭を冷やす時間が必要だと思ったからです。
それでも、彼女はこれまで夫に従ってきた自分を捨てられず、夫から受けるモラハラに苦しみながらも反抗できずにいました。
しかし、実の母親からはっきりと
「あなたの夫はダメな人間」
「あなたは何も悪くない」
と言われたことで目が覚め、現実を変える勇気を持ちます。
「頑張っている私がどうしてここまで言われないといけないのか、私をちっともいたわってくれない夫が今さら憎くなってきて。
『夫に従うのが妻の役目』と怒られるかもと思っていたけど、母に『(夫を)捨ててもいい』と言われて、これ以上我慢しなくていいんだって思ったの」
彼女は、「お金がかかるし、今は貯めることを考えたい」と別居することはやめ、その代わり離婚についての情報を集めるようになりました。
子どもとふたりで暮らしていくための生活費の計算や住む家のこと、シングルマザーが受けられる手当てや控除、夫に課せられる養育費の相場。
わからないことはどんどん役所に尋ね、離婚に強い弁護士を探して相談し、調停になった場合のことを考えてモラハラの証拠を集めます。
相変わらず自分を下に見る発言を繰り返す夫には、これまでは「ごめんなさい」を反射のように繰り返していたけれど、離婚の準備を始めてからは嫌味も気にならなくなったといいます。
「つらくない?」
と尋ねると、
「ううん。録音されているとも知らず、私をバカにすることばかり言っているあの人を見るのが快感よ。
自分で自分の首を絞めているって気が付かないのね」
と彼女は乾いた声で笑いました。
4.いつか夫がくらうしっぺ返し
彼女は、夫に給与明細を見せるのをやめました。淡々と家事をこなし、できないものは放棄して夫に嫌味を言われても無視、休日は子どもとふたりで外出することが増えたといいます。
「あの人、私に向かってしつこく『家のことをやれ』って言うのよ。無視していたら息子が『今までお父さんがやっていたじゃん』って言ってくれて、そうしたら顔を真っ赤にして黙るのね。
息子も、父親が嫌なやつっていうのは気づいているから、休みになると私に『どこか行こう』って言うの。親の仲が悪いのが耐えられないんでしょうね。
嫌な思いをさせて本当にすまないと思うけど、離婚するまでの辛抱だから私ももっと仕事を頑張って貯金するつもり」
そう言う彼女は、暗い表情ではあるけれど以前のような切羽詰まった感じがなく、自立することに覚悟を決めているのがわかりました。
「いつでも離婚できる自分」を目標にしたことで、ただ落ち込むことから行動する自分に変わったのですね。
彼女の決意も覚悟も、夫は知りません。妻の様子が以前とは違うことに気がついてはいても、これまで自分に従ってきた彼女の姿しか知らないので「まさか離婚を考えているとは思ってもいないでしょうね」と彼女はいいます。
その夫がいつかくらうしっぺ返しは、自分がしてきたことの結果。妻を大事にしない現実の重さは、必ず痛みとなって夫のもとに返ってきます。
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夫婦は対等な関係です。妻が自分より高い収入を得ることを「気に入らない」と思うことがそもそも間違いであり、お互いに「ありがとう」と感謝しあうのが本来あるべき姿のはず。
その器の狭さがモラハラとなって妻を苦しめ、そんな自分を正当化すればするほど、離婚のときには不利な材料となります。
ですが、それも自分が選択したことです。夫は、いつか大きな代償を妻に払うことになります。