11月3日(木・祝)まで開催中の「東京国際映画祭」。今回は、同映画祭のプログラミング・ディレクターである矢田部吉彦さんと、ナビゲーターを務める女優・映画監督の松本花奈さんによる対談をお届けします。今年も各国から注目作が揃った「コンペティション部門」。ふたりの気になる作品はいかに?
映画祭は、ロックフェスのような楽しいイベント!
――松本さんは、幼少時より子役として活動を始め、中学時代より映像制作をスタート。高校時代の2016年、ゆうばり国際ファンタスティック映画祭に出品した『脱脱脱脱17』がオフシアター・コンペティション部門の審査員特別賞を受賞。プチョン国際ファンタスティック映画祭でも上映され、新世代の旗手と言われている。
現在、大学生でもある彼女にとって、東京国際映画祭はどういう印象なのだろうか?
松本「映画祭のよさって、映画を観ることだけではなく、普段は映画をあまり観ない人も楽しめるような、“イベントを楽しむ”っていうことなのかなと思います。でも、東京国際映画祭は少し敷居が高いかなというのも、正直な印象です」
矢田部「そうなんですよね。私たちも、『ロック・フェスティバルと同じようなものなんですよ』ということをアピールしているのですが…」
松本「レッドカーペットを歩くスターたちの姿を見ると、『別世界の出来事、自分には関係のないイベントなんだ』と思ってしまうんです」
矢田部「そこなんですね。確かに、映画祭を宣伝するのにはレッドカーペットは格好の材料なのですが、逆に映画を観る観客を遠ざけているのは事実かも知れませんね。皮肉な話です。一般的に見ても、現在は若い世代の映画人口は減ってきています。
でも、東京国際映画祭に限っていえば、若年層の観客は年々増えては来てるんですよ。学生は当日券500円になっていて、それも大きいと思います」
エンターテイメント性の強い問題作を選出
――通常、国際映画祭のコンペティションといえば、アート系の作品が中心となるが、東京国際映画祭では、そこに留まらない作品選びを心掛けているという。
矢田部「私がコンペ作品の選定に携わってから今年で10年目なのですが、転機となったのは2011年の『最強のふたり』ですね。出張で訪れたフランスで試写を観て、最高に面白かったのですが、いわゆるアート作品ではない。
コンペ部門の選定において、エンタテインメント性と、作家性のバランスをどう考えるかが難しいのですが、1ヵ月悩んだ末に、決めました。それが見事にグランプリを獲得した。それを見た日本の会社が配給に乗り出し、翌年記録的なヒットを飛ばしたのです」
松本「私も映画を作っていて、エンタテインメントって何だろうというのは、常に考えています。観終わって面白いだけではなく、何かしらの感情が揺さぶられる。映画を観たことで、落ち込んで暗くなったとしても、エンタテインメントではないかと」
矢田部「そうですね。観ている間は不快なのに、終わると『いい映画だったな』と思えることは多い。そこが映画の奥深さなのかなと思います」