理解者がひとりいれば生き延びられる
先のホワイトリボン・キャンペーンは、「小学校高学年から高校生の間に自分がLGBTであることを話した人数」に関する調査も行っています。それによると、「生物学的男子」の53%が、「生物学的女子」の31%が誰にも言えなかったと回答しているのです。
EさんがLGBT層であることを自覚した当初、唯一身内で心を開けたのは同居していたおばあちゃんでした。ですが、Eさんがカミングアウトすると「ひ孫」とだけひと言。つまり「結婚はしろ」という意味だったのでしょう。
その後、Eさんは高校に進学しますが、2年生のときに数か月不登校になってしまいます。
そんなEさんを救ったのは、家族ではなく担任の先生でした。担任の配慮で、母親のEさんに対しての態度が軟化し、卒業することもできたのだそうです。
「担任の先生には特に自分のことを言ったわけではないのですが、自分をわかってくれた人でした。親にも電話してくれて、初めて母親が”休んでもいいよ”と言ってくれたんです」
恩人だとEさんは言っていました。
Eさんのケースのように、必ずしも親が理解者でなくても誰かひとり、自分を理解してくれる人がいれば、文字通り「生き延びられる」のだと思います。
ですが、親としては、子どもが苦しいときに助けを求める存在が自分であってほしいですよね。そのために親になにができるかと言ったら、子どもが大事なことを打ち明けやすい雰囲気をつくっておくことではないでしょうか。
普段、無意識にしていることが、LGBT層の子どもを遠ざける場合もあります。
たとえば、テレビを見ていて親が同性愛者を差別するような発言をするのを聞いた子どもは、自分が当事者であることを親に言おうとしないでしょう。
「とてもこの人たちには自分の大事なことは言えない」と心を閉ざしてしまうと思います。
親ができること
子どもがLGBT層かどうかは、子どもの持って生まれた性格同様、無理やり変えることのできないものであると同時に、子どもを形成するひとつのファクターでしかありません。
ありのままの子どもを受け入れることが親には求められますが、子どもがLGBT層かどうかは、子どもが幼いうちはすぐにはわからないということでした。
ならばせめて、親が自分のなかの偏見をなくしていく努力が必要かもしれません。
筆者の娘は保育園に通っていますが、あるとき、彼女の同級生の男の子のことを筆者が「かわいいね」と言ったら、「男の子はかっこいい、女の子はかわいい、だよ」 と言ってきました。
これは一種のジェンダーバイアス(社会的・文化的性差別あるいは性的偏見)です。自分ではそう教えたつもりはなかったので、ちょっとショックでしたね。
とりあえず、「男の子でもかわいくなりたい子もいるし、女の子でかっこいい子もいるんだよ」と言うに留めましたが、どう娘にジェンダーのことを伝えていくかは、筆者にとっても課題だと感じています。
さすがに、今どき「男の子なんだから泣かないの」「女の子はおとなしくしなさい」と言う人は減ってきてはいると思います。ですが、ほめ言葉にもジェンダーバイアスがある、ということは知っておいた方がいいかもしれませんね。
また、子どもが選ぶ服やおもちゃについても、「それは女の子のだよ、おかしいよ」などと意見することも、ジェンダーバイアスです。
そう考えて気をつけてみると、まだまだ今の日本社会はジェンダーバイアスに満ちているのかもしれません。
とはいえ、性の多様性について学ぶ機会は少しずつ増えてきています。ホワイトリボン・キャンペーンでは、多様な性を知ってもらうためのパネル展示を無料で全国に貸し出しています。
また、すでに子どもがLGBT層であることに悩んでいる家族には、同じような思いを抱えるほかの家族とつながれるNPO団体もあります。
今回お話をうかがったEさんは、今は両親のもとを離れ、パートナーと安定した暮らしをされているそうです。「今がいちばん自分を生きていると感じる」と言っていました。
子どもに自分らしくのびのびと生きてほしくない親はいません。ただ、どんなことがその子らしさなのかは、すぐにはわからないかもしれません。
それは可能性と同じこと。子どもの成長にあわせて、時間をかけて見守っていく必要がありそうです。