そうしたモチーフに対するこだわりは、巨大ロボ戦においても共有されており、劇中に登場する巨大ロボの「ゲキトージャ」も、メインの武器に何と三節棍を使用します。加えて、必殺技も、シリーズにおける巨大ロボのお約束である斬撃や砲撃ではなく、回転パンチや錐揉みキックで相手を倒す異色の戦隊ロボなのです。

エピソードが進むと、パワーアップアイテムとしてバズーカや剣といったオーソドックスな武器も顔を出してくるのですが、それらも「気」をエネルギーとして使用するという独自設定や、「拳聖」と呼ばれる師匠格のキャラクターたちとの修行を通して使用が可能になるなど、本作ならではの要素を盛り込んだものとなっています。

こうした武器を駆使した戦闘シーンは、カンフーアクションを中心にした、これまた独自性のあるものとなっており、他の作品との差別化が図られています。同じく、拳法をモチーフとした『五星戦隊ダイレンジャー』と観比べてみるのもまた一興です。

敢えて王道のデザインや各種設定を使わず、拳法のモチーフとアクションシーンに重きを置いた『獣拳戦隊ゲキレンジャー』は、シリーズの歴史においてもかなり実験的な作風であり、その挑戦的な試みは、本作において大きな魅力の一つなのです。

ユニークな修行法の描き方と起伏に富んだドラマ性に注目!

様々な実験的な要素を導入に加えて、ストーリー面でも観るべきポイントや再評価したい要素が沢山あります。

『獣拳戦隊ゲキレンジャー』の物語において、一番のポイントとなるのが劇中の修行シーンです。

物語の基本フォーマットは、ゲキレンジャーたちが各エピソードで立ち塞がる敵の拳士たちを特訓の末に撃破するという、少年誌連載のバトル漫画やカンフー映画の「王道」ともいえる構成が用いられています。

しかしながら、その修行法というのが、何ともユニークで、掃除や釣り、ダンスなど日々の生活や遊びを通して、拳法の真髄を身につけていくという、一風変わった作風となっているのです。

メインの視聴者層である児童の目線に合わせたコミカルな描写も多く、修行のシーンでは、ストレートな「スポ根」とは一線を画する個性派のトレーニングが続々と登場します。

しかしながら、こうしたパワーアップの描写は、劇中にも度々登場する「暮らしの中に修行あり」という名台詞を体現するものであり、スポ根的な過酷なハードトレーニングとはまた違ったアプローチから、「努力をすれば、人間は成長できる」という前向きなメッセージを描くことに成功しています。

そうした真っ直ぐなメッセージ性に加えて、作劇の面でも「ゲキバイオレット」と「ゲキチョッパー」という二人の新戦士の登場や、ゲキレンジャーたちがパワーアップした新フォームの追加、物語終盤での真の巨悪の出現、そして、かつてのライバルたちとの共闘……と、様々なドラマとイベントが用意されており、多くの見どころを持つ作品となっています。

『忍風戦隊ハリケンジャー』や『特捜戦隊デカレンジャー』といった「名作」の誉れ高い2000年代のスーパー戦隊シリーズの影に、どうしても隠れてしまいがちな『獣拳戦隊ゲキレンジャー』ではありますが、本作のポジティブで、なおかつ起伏に富んだドラマ性は、10年が経過した今だからこそ再度、光が当たって欲しいと思うのです。