そこにある思いは凄くシンプルなんだな、と

――櫻井さんは、どう思われましたか?

©小林裕和

櫻井:この作品への出演が決まった時に、作品の内容もさることながら、その……伊藤計劃さんという作家にまつわる色々なドラマがあるじゃないですか。

ファンの方も多いですし、凄い賞を受賞されていたりとか、僅かな数の作品しか遺されていないとか、そういった著者の情報もありましたし、実際に出演前に、この『虐殺器官』という作品を読ませていただいて、凄くチープな表現ではありますけど「難しいな……」と単純に思ったんですね。

決して、現実の世界から浮世離れしているわけではなくて、どこかリアリティがあって、「アニメーションでこれを観た時にどういう気持ちになるのかな? どういう質感のものになるのかな?」というのは、凄く想像力を刺激されましたね。

実際にお芝居をする時は、「アフレコの時に考えよう!」という感じだったので、それは収録に臨んでの感想になってしまうんですけど。「どういう映像になるんだろう?」っていうのは、大きく気になっている部分ではありました。「結構、エグい映像になるだろうな」とか。

――櫻井さんが演じられているジョン・ポールは、非常に謎の多い登場人物です。ご自身でキャラクターを分析されてみて、彼はどのような人物だとお考えになりますか?

櫻井:まぁ、彼は、確実に僕よりも頭が良い人なので。

中村:ふふふ(笑)。

櫻井:僕が彼を超えることは絶対にないなと思っていたので(笑)。彼のことを一から十まで分かるかというと、分からないままの部分もあるだろうな、と考えていました。

でも、それはお芝居のアプローチとして、自分の想像力にプラスして、他のキャラクターたちとのドラマもありますし、実際のアフレコの場での熱量であるとか、そういうものを自分の中では利用しながらお芝居したいな、と。

そうやって、自分なりのプロファイリングで、ジョン・ポールを表現させていただきましたけど、やっぱり、計り知れない男ではありますよね。

――そうした底知れぬ人物を演じる上で、拠り所にした部分などはあるのですか?

©Project Itoh / GENOCIDAL ORGAN

櫻井:ジョン・ポールは、当たり前の日常を過ごしたくて、なりふり構わぬ手段を取るわけですよね。ただ、そこは何か、僕自身も「分かる」って思ったんです。

例えば台詞の中に「スタバ」ってキーワードが出てくるんですが、そこに日常を感じて、「あ、この人は、ムチャクチャなマッドサイエンティストみたいな……狂いまくってる人じゃないんだな」って感じました。猛烈に何かを割り切った……どこか、タガが外れている人だと思うんですけど。でも、そう決めたんだなっていう。

そこにある思いは凄くシンプルなんだなって。そこを掴まえどころというか、頼りにした部分はあります。

――中村さんが演じているクラヴィスは、国家の為に戦う戦士である一方で、感情を抑えた喋り方が求められる役どころだったかと思うのですが、何か演じられる上でご苦労はありましたか?

中村:「感情をコントロールされて、人間性を抑制された状態で戦場にいる」という感情を理解するのがなかなか難しかったです。

櫻井:そこだよね~。