撮影:尾嶝太

古典の枠に囚われない試みに、文楽関係者も「ほんとうにおもしろい」

「最初からこのお話に関わらせてもらい、台本も真っ先に読んでいました。

やはり、いちばんわかっている人間が、半兵衛という、狂言回しのような役割で話の中心になって動く役をやらないと難しいかな、と思ってやらせていただいています。

僕らは修業中には、女形も立役(男役)も両方やっていくものですから、できないことはないんです。

半兵衛は出づっぱりなのでこの役のみになりましたが、ほんとうはもうひと役、女形もやりたかったですね」

これからの文楽を背負って立つ世代らしい、果敢で柔軟な姿勢。

実は一輔さんの師匠である女形遣いの第一人者・吉田簔助さんも、若いころから、新作や新演出、他分野のアーティストのコラボレーションなど、古典の枠に囚われない試みを積極的に行ってきた先達だ。

「師匠はいろいろなことにチャレンジされていたので、こうしたことにも理解があって、僕たちもやりやすいので、ありがたく思っています。

なかには、反対されるような方もいらっしゃいますのでね。それでも、まあ時代とともに反応も変わってきているなとは思います。

特に『其礼成心中』は、それはもう文楽関係のいろいろな方が観に来てくださって、とても高評価をいただいたんですよ。

僕らから見たら、古い考えをお持ちと思われる、厳しくこわい方もいらっしゃいまして、そんな方が観に来られていると思うと、ものすごく緊張したものですが、そういう方たちも『ほんとうにおもしろかった』と心から言ってくださったんです。すごくうれしかったですねぇ」