古典へのオマージュもたっぷり。重鎮たちも納得の新しい文楽の世界
『其礼成心中』というタイトル自体、文楽を代表する名作『曽根崎心中』のパロディ風。
『曽根崎心中』は、元禄時代に実際に起きた心中事件に材を得た近松門左衛門が、事件からすぐに人形浄瑠璃に仕立て上げて当時大ヒットした作品で、これに影響された巷の男女の心中が流行したというのも、ほんとうの話。
三谷幸喜はその逸話をヒントに、心中名所となってしまった場所近くで饅頭屋を営む半兵衛が、ひょんなことから便乗商売を始め、やがて自身が心中しかける羽目になり──と、抱腹絶倒の展開が続く喜劇を創り上げた。
同じく近松の心中物『心中天網島』の見どころをそのまま再現する場面なども取り入れていていて、極上の三谷コメディであると同時に、文楽という芸術文化そのものへのオマージュが、そこはかとなく感じられる後味のよさ。
伝承について厳格な立場を貫く方々も、これなら絶賛を惜しまないはずだ。
こうしてプロを感心させる一方で、これほど、文楽を初めて観る観客でいっぱいになった客席が、湧き返った作品もめずらしい。
「初演から8年経ちましたが、『其礼成心中』がきっかけで、文楽を観るようになったという方が、ほんとうに多いんですよ。
人形遣いのほうも、初演のころはまだ足遣いも本舞台ではできていなかった子が、この場で勉強を重ねて、いまは立派な足遣いになっています。
何度も上演させていただくことで、全員の芸歴もどんどん上がって、できることが増えてきています」
8年の歳月が、作品と演者と観客を、着実に成長させた。『其礼成心中』は、新たな文楽の財産演目になりつつある。
コロナ禍のために、3月からずっと舞台に立てない日々が続いた。
「人形遣いは体力が勝負ですから、毎日5キロほど歩いて足腰を鍛えていました」
5か月ぶりの舞台では、半兵衛のアクロバティックな動きも、ますますキレッキレになっているはずだ。
作品情報
PARCO劇場オープニング・シリーズ 三谷文楽『其礼成心中』
日程:8月13日(木) ~ 20日(木)
会場:PARCO劇場
料金:8,500円(全席指定・税込)
作・演出:三谷幸喜
作曲:鶴澤清介
出演:竹本千歳太夫、豊竹呂勢太夫、豊竹睦太夫、豊竹靖太夫、鶴澤清介、 鶴澤清志郎、鶴澤清丈'、鶴澤清公、吉田一輔、吉田玉佳、桐竹紋臣、ほか
囃子:望月太明蔵社中
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