今の状況に近い、現代に響く作品
PARCO劇場オープニング・シリーズの“夏の陣”、三谷幸喜三作品三連発公演が、第一弾の新作『大地』で華々しいスタートを切った。
新型コロナウイルス感染防止のために席数は半減されているが、笑いに沸く劇場の光景、その熱量は以前と変わらない。
特定回でのライブ配信も好評実施中である。大泉洋、相島一之、浅野和之、辻萬長など、突出した個性と実力を誇る豪華な面々が集結したキャストの中で、この人もまた、三谷の世界を彩る必須の一人。
『大地』の終演後、疲れも見せず、穏やかな物腰で現れた山本耕史に話を聞いた。
「三谷さんは間違いなく面白いものを作る、いつもそう思っているので、今回は僕をどんなふうに書いてくれるんだろうと楽しみにホン(台本)を待っていましたね。
僕だけじゃなく、ほかの俳優さんの役を見ても、ああ、確かにその人がやると面白いな、その人らしいなと思うんですよ。逆に、その人らしくない役に描いて面白い、というパターンもありますけど。
おそらく三谷さんは、“この人にこういうことを言わせたら面白いな”と考えながらホンを書いているんじゃないかな…と思ったりします」
物語の舞台となるのはとある共産主義国家、政府の監視下におかれた施設。そこに収容されているのは反政府主義のレッテルを貼られ、演じる行為を禁じられた俳優たちだ。
初日前に行った公開フォトコールのシーン説明で、三谷が「何という先見の明なのか」と場を盛り上げるべく自負していたが、コロナ禍の現状に重ね合わせて、幾分息詰まるものを感じながら舞台を見つめた人も多いだろう。
三谷が山本に当てて書いたのは、著名なスター俳優、“ブロツキー”役だ。
「きっと以前からこういう話をやろうと考えていらしたと思うんですけど、より今の時事に近寄せた、現代に響く作品になったように思います。
僕の役は、最初に台本を読んだ時は、意外と普通だなと(笑)。スターという設定だけど、丁寧語で話していて別にエラそうにしているわけでもないし。
ただ三谷さんの話を聞くと、『自分はほかの舞台俳優たちとは違う、映画畑の人間だ』という意識を持った俳優だと。それは決してほかの人を見下しているわけではなく、自分のスタイルを確立しているということなんですね。
三谷さんに『イメージとしては佐藤浩市さん』と言われて、なるほど〜と思いました」
エンターテインメントが止まったこの期間を経て、“演じることができない俳優”の役を迎えた。そして今もコロナ禍は続いている。稽古中もさまざまな感情にとらわれたのではないだろうか。
「そうですね。自粛期間には全部の仕事が先延ばしになって、俳優って本当に何も出来ることがないなと。
この先どうなるんだろう? という不安もあれば、危険をおかしてまでやる仕事なのかな? と思ったり。やるほうが正しいのか、やらないほうが正しいのか……よくわからなかったですね。
でもとにかくこの『大地』を一発目として、やり始めた。始まる時、僕は『よし!』という思いと同時に、『ホントに大丈夫かな』という思いも正直、ありました。それでもPARCO劇場のスタッフの方々がとても徹底した感染防止対策をしてくださっているので、そこがすごく信頼してやれている部分ですよね」