力のある俳優が揃った、クレバーな稽古
そんな不安の中での幸いは、劇場のステージで稽古が進められたことだという。集中度の高い空間で、今回の“ソーシャル・ディスタンシング・バージョン”の芝居が立ち上がった。
「これまでで一番贅沢な稽古場……というか、本番の場所ですからね。いつもなら開幕間近に劇場に入って、動線や早替えのタイミングとかを調整する“場当たり”をやるけれど、そういう時間も省けましたしね。稽古で慣れ親しんだ空間で、そのまま本番ができるのはとても心強いことではありました。
ソーシャル・ディスタンシング・バージョンは、やっぱり三谷さん、さすがだなと。距離を保ちながら、それすらも形として見せていく作り方がすごい。
また三谷さんもすごいけど、昨今の状況がどうであれ、やっぱり作り手と僕らプレイヤーの関係性は変わらないなとも思いました。
今回は相当、クレバーな稽古だったと感じています。皆で理解して、だったらここはこういう技術で、こういう解釈で、こうやって接触を回避しよう……とどんどん動いていって。力のある人が揃ったから出来たんじゃないかなと思います」
これから演劇はどうなっていくのか、いつになったらまた触れ合って演じることができるのか……と考えを巡らせ、「未知の形がこれから出来ていくのかなって思うんですよね。僕らがやるべきことは、今ある現実とは違うものを見せること……とは思うけど、僕らも人間だからね(笑)」と率直な迷いを隠さない。
ただ、この『大地』の舞台に立ちながら見つけたもの、あらためて気づいたことは確かにあった。
「見つかったのは……、お客さんと僕らのつながりみたいなことかな。僕らは俳優で、演じることの大切さをあらためて感じましたし。
ただ、この芝居でも言っているように、やっぱりそこに観客がいなかったら舞台は成り立たない。客席の半分だけでもお客さんが入ってくれて、笑いの反応とか薄いかな? と思ったけど、満員の時と遜色ないように感じていますね。
配信も、映像ではあるけどライブで観ていただいているので、また違った楽しみ方を提供できているかなと」
東京公演は8月8日まで。8月12日には大阪公演の幕が開く。
人間の尊厳とは、表現の豊かさ、自由とは……、三谷が笑いをまぶして描いた“俳優についての物語”、それを体現する俳優陣の真摯な奮闘は続いてゆく。
「こちらも試行錯誤している最中だし、お客さんもきっと新しいものを欲している、そういう状況下ですからね。お互いに求めるものを共有して、新しい形を生み出していく。元通りになればそれもありで、相乗効果にしていければ。
僕、この『大地』にもし出ていなかったら、こんな風に前向きでいられたかな、とも考えますね。そういう意味では出られてよかった。お芝居に触れていることは、僕らにとって呼吸するようなものなんだなとあらためて思っています」
作品情報
『大地(Social Distancing Version)』
〈東京公演〉
日程:7月1日(水)~8月8日(土)
会場 :PARCO劇場
料金: 12,000円(全席指定・税込)
〈大阪公演〉
日程:8月12日(水)~23日(日)
会場:サンケイホールブリーゼ
料金 12,800円(全席指定・税込)
作・演出:三谷幸喜
出演:大泉洋、山本耕史、竜星涼、栗原英雄、藤井隆、濱田龍臣、小澤雄太、まりゑ、相島一之、浅野和之、辻萬長