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人間にできることは何でもできる!? 三谷文楽誕生までの試行錯誤

三谷幸喜が初めて文楽の作・演出に挑戦した『其礼成心中』は、2012年にPARCO劇場で初演され、大好評を得て翌年すぐに再演。

以後も、全国各地で上演が繰り返されている新作文楽だ。大成功をおさめた、文楽と現代のヒットメーカーの出会い。

吉田一輔さんは、直談判して三谷幸喜さんを文楽の世界に引き入れた、張本人でもある。

撮影:尾嶝太

「三谷さんが、文楽を観に来られた際に、共通の知り合いからご紹介頂き人形の解説等をした際に、『ぜひ文楽をやっていただきたい』という話をさせてもらったんですが、そうですね、驚くほどトントン拍子に決まりました。

内容については、三谷さんは本を書くのが本業なので何の心配もありませんでしたが、文楽は太夫、三味線・人形遣いの三者の作業で行うものなので、何が可能で、何が不可能なのかということを、相談しながら創り上げていった感じです。

三谷さんは、きっと人形が演じるということで、どんな表現ができるのか、すごく心配やったと思うんです。

そのお話をしているなかで『人間にできて人形にできないことは何でしょうか』ということを尋ねられまして、僕は引くに引けなくなって、思わず『人間にできることは何でもできます!』と言ってしまいまして(笑)。

『じゃあ、これやってみてください』と言われた動きは、案の定やったことのないものだったんですけど、その場で主遣いの僕と、左遣いと、足遣いの三人で、チョチョッと打ち合わせして、パッとやってみせたんですね。

そしたら三谷さんが『おもしろい! 使えますねー』とおっしゃって、それがこの芝居の中でも、ちゃんと使われています」

それは主人公の半兵衛が、心中しようと川へ身を投げたつもりが、バリバリの水泳の達人で、クロールや背泳ぎを披露してしまい、客席が大爆笑となる場面。

「文楽の古典にも、泳ぐ動きはあるんですけども、たいてい平泳ぎみたいな手足をするので、クロールや背泳ぎはないんです。

なのに急に言われてやってみたら、それなりに、ちゃんと見られるものができたんですね」

と、さりげなくタイトルを入れ込む余裕(!?)。文楽の修業は非常に厳しく、三人で一体の人形を遣う人形遣いの場合は、「足(両足だけを担当する足遣い)十年、左(左手だけを担当する左遣い)十年、主遣い(首<かしら>と呼ばれる頭部と右手を担当する)一生」などと言われるストイックな世界。

それを知ってか知らずか、日本が誇る稀代のコメディ作家による容赦ない無茶ぶりに、瞬時にこたえてしまえる気概と実力がまぶしい。

そういえば、ふだんは女形の人形を遣うことが多い一輔さんが、かなり強欲で図々しいけど憎めない、中高年のオヤジ然とした主人公・半兵衛役の人形を遣うのも、目を引いた。