■ファンの応援や辛辣な批評がモチベーションにつながる

『くくりひめ』著者・姫野春さん
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『くくりひめ』の著者、姫野春さんは東京都内在住、30代前半のシステムエンジニア。今回の授賞者は、いずれも20~30代の若手作家で、他の仕事、あるいは主婦業の合間に執筆活動を続けている。さらに共通するのは、「読者」に感謝の言葉を送ったことだ。

「E★エブリスタ」で連載中の作品には、読者からさまざまなコメントが寄せられる。受賞者の面々は、「続きを楽しみにしている」という声に励まされ、ときには辛辣な批評をモチベーションにつなげ、あるいは物語のヒントを得ながら、大手出版社からも高く評価される作品を描き上げたようだ。

この日、特別プレゼンターとして登壇したお笑い芸人で、自身も作家として活躍している品川庄司の品川祐さんは、同賞を総評して「出版社から出る本は編集のプロに揉まれたもので、洗練されている。一方の電子書籍は荒削りだが、それだけにプロには出せないパワーがあると思う。単純に読んでいる人が評価して賞が決まるのは面白い」と語った。

電子書籍が普及するなかでは、「文筆への参入障壁が下がり、質の低い作品が増えて、良質な作品に出会う上でノイズになる」との意見もある。しかし、埋もれていた才能が開花し、また読者との密な交流から"本当に読みたい物語"が生まれる、というケースがすでに出てきているようだ。

■人気作品として選ばれるポイント

また、今回の受賞作を始め、「E★エブリスタ」の人気作品には、キャラクター&ストーリー設定が刺激的だったり、突飛に思えるようなユニークなものだったりと、筆力や物語の構成力に増して、フックになるアイデアが秀逸なものが多い。インターネットを通じて、いつでもどこでも手軽にアクセスできる電子書籍だからこそ、キャッチーで続きが気になるアイデアが、そのまま読者の獲得につながりやすいようだ。今後、コストがかかる一般の書籍や雑誌連載ではチャレンジしにくい、あっと驚くユニークな作品や、議論を呼ぶ問題作が登場することにも期待が高まる。

ちなみに、今回の受賞作はすべて"紙の書籍化"が決定している。新時代のスター作家の誕生とともに、いわば電子書籍から逆輸入された作品たちが、一般の読者にどう評価されるか、ということにも注目したい。


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【関連サイト】
E★エブリスタ 公式サイト[ https://estar.jp/.pc/ ]

はしかわ・よしひろ 1981年、神奈川県生まれ。編集プロダクションblueprint所属のライター、編集者。ビジネス・ネットサービス・グルメ・映画・音楽・コミック・ゲーム・スポーツなど、幅広い分野で取材・執筆を担当。構成を担当した書籍に『まな板の上の鯉、正論を吐く』(堀江貴文/洋泉社)、『伝説になった男~三沢光晴という人~』(徳光正行/幻冬舎)など。