役者業を始めたことで、表情が豊かになった気がします

宮沢氷魚 撮影:須田卓馬

『騙し絵の牙』は、オールスターキャストと呼ぶにふさわしい豪華な顔ぶれが揃った。一筋縄ではいかない演技派・個性派が立ち並ぶ中、役者5年目の宮沢も異質の空気感を放っている。

「みなさん上手いし、クセのある方ばかりなので、勝とうと思ったら絶対に負けちゃう。だから、あくまで自分は自分のペースでやろうと。

特に矢代においては、周りに左右されずに、自分の温度感を保ったまま佇んでいる方が、矢代らしさが出るんじゃないかなと思いましたね」

一癖も二癖もある面々の中で、強烈なパワーを発しているのが主演の大泉洋だ。多くの映画で主演を張り、今や国民的な人気者となった大泉と現場を共にしたことで、宮沢はどんなことを学んだだろうか。

「大泉さんはスイッチのオンオフがすごく上手なんです。カメラがまわっていないときから、みんなを笑わせようとしてくださる素敵な方なんですけど、『よーい、アクション!』の声がかかった瞬間から、また違うプロの役者の顔になる。でも、撮影が終われば役を引きずることなく、しっかりスイッチをオフにしてらっしゃるんです。

僕は現場でオンオフの切り替えをするのがすごく苦手で。同じ日に何シーンも撮らなきゃいけないときとか、一度オフになっちゃうと集中力も切れちゃうし、役の気持ちがつかめなくて迷子になることがあって。だからこそ、大泉さんをはじめ、みなさんのメリハリのつけ方を見て、またひとつ勉強になりました」

宮沢氷魚 撮影:須田卓馬

メガホンをとったのは、『桐島、部活やめるってよ』『紙の月』の吉田大八。初めて吉田組の現場を経験した宮沢は、長年CMディレクターとして活躍してきた吉田ならではの演出にまた新たな発見があったという。

「吉田監督は立ち位置や台詞の間尺にもすごくこだわりがあって。台詞の言い出すタイミングにも細やかて、『芝居はいいし立ち位置もいいけど、この台詞を言い出すまでにあと0.何秒ほしい』と何テイクも重ねられる方。『言葉と言葉の間にもうひと息入れてくれ』とか他の現場では言われないような緻密なオーダーもたくさんいただきました。

きっとそれは大八さんの中でイメージしている絵がはっきりとあるから。カット割りも事前にしっかりと決められるんです。広告の場合、このフレームの位置に誰がどういて、ということがすごく大事になってくるので、そこは広告出身の大八さんならではなのかなと。今までにない経験だったので、すごく面白かったです」