こういう役をやらせたら右に出る者はいない。そう周囲に思わせる個性を持った俳優は、強い。
宮沢氷魚は、まさにそんな俳優のひとりだ。俗っぽさがまるでなくて、どこか謎めいている。そのミステリアスな佇まいで、これまでも衆目を集めてきた。
3月26日(金)公開の映画『騙し絵の牙』で演じた矢代聖も、宮沢氷魚にしか演じられない役だ。突如世に現れた、正体不明の新人小説家。宮沢の浮遊的な存在感が、矢代のカリスマ性に説得力を持たせている。
その笑みは、優雅でいて、底が知れない。曲者揃いの本作に、きっとあなたもダマされるはずだ。
得意な役どころがあることが、役者としての自信になる
「(監督の)吉田大八さんと衣装合わせのときにお話をして。とにかく何を考えているのかわからない男の子にしようと決めました」
そう矢代聖として過ごした日々を、宮沢は追憶する。
「矢代聖は、登場シーンからすでにもうミステリアス。一体どういう人間なのか誰もわからないというキャラクターです。だから、まずはあまり感情を表情で出さないようにしようと。
実際に思っていることや感じていることと表情がいい意味でリンクしない方が面白くなるんじゃないかなと考えながら演じていました」
その狙いは、当たった。矢代聖の初登場シーンは、本作の重要な転換点。宮沢の演じる矢代は、ただ立っているだけで、まとう空気が違っていた。こうしたミステリアスな役どころは、宮沢氷魚の十八番だ。
「『賭ケグルイ』や『偽装不倫』もそうですけど、今いち掴めないというか、何を考えているのか読み取れない役柄をいただくことは確かに多いですね。その分、こうすれば面白いよねという今までの経験を活かせることもあったので、演じていてとても楽しかったです」
絵画のような顔立ちからは、品格と、どことなく翳りがにじみ出る。俳優として、得意な役どころがあることはどんな気持ちなのだろうか。
「うれしいです。特に僕はまだそんなに長くお芝居をやっているわけではないので、こういうことができるんだというものがひとつあるだけで自信になる。
それに、得意な役柄があるからこそ、他のスタイルのお芝居にも恐れず挑戦していこうという気持ちにもなれる。そういった意味でも、自分にとってはプラスなんじゃないかと思っています」