さえない35歳は「映画よりダサい仕上がり」

竹内涼真 撮影:渡邊明音

──原作映画でザック・エフロンとマシュー・ペリーが二人で扮した主人公マイクを、竹内さんは一人で演じます。過去のインタビューで「それぞれの年齢でしっかり役づくりを行い、その差が大きいほどおもしろくなる」とおっしゃっていましたが、現時点でどのように取り組んでいらっしゃいますか?

35歳のマイクは「こんなお父さんにハグされたくないわ……」ってイメージで清潔感がなく、映画よりかなり太っています。

容姿を整えることを諦めてそんなに腹も出ていたら、そりゃマギー(娘)もアレックス(息子)もイヤだろうって人物造形。

パンツ一丁でいびきかきながら寝てるんだろうな……とか、酔っ払って帰ってきて「ねぇママ〜」とか言いながらスカーレット(妻)にウザ絡みしてそうだな……とか。

一度ポスター用にビジュアル撮影しましたけど、「やり直した方がいいんじゃない?」ってくらいダサい仕上がりになりそうです(笑)

──映画の中年マイクは、人生と家族に疲れ果てた哀れな男に見えました。

そうなんですよ。僕も、映画の大人マイクは妻との不仲と子どもたちの思春期が重なってしまった不幸な男に見えました。会社では新人の女性社員に先に昇進され、自分の席が無くなってしまって。

でもミュージカルでは「うまくいかない結果を招いた原因は、すべてマイクにあった」って描き方になるかもしれません。

──ミュージカル化に際して設定をアレンジするんでしょうか?

いちばん最初の家族シーンで、35歳のマイクがどれだけダメな父親で、家族の抱える悩みやトラブルに気づけていないか……ということを観客に伝えておく必要があるんですよね。

谷さんいわく、「その方が17歳に戻った時に『うーわ、俺って周りがこんなに見えていなかったのか』って彼のショックを強く伝えられると思うから」って。

──一方で、バスケットボールのスター選手だった17歳のマイクはどのように演じますか?

劇中のほとんどが17歳の姿で、冒頭の35歳と見た目も振る舞いも変わるから……それほど強く意識しなくても演じ分けができる気がしています。大切なのはコメディ要素をどこまで出すか。

見た目はイケてる17歳だけど中身は35歳だから、どうしてもオヤジくさい言い回しが出てくるんですね。

お客さんにも「わ、オッサンくささ全開だけど大丈夫?」って感じてもらった方がよいのか、それとももっと隠して演じた方が伝わるのか……そのバランスはこれから稽古場で見つけていきたいですね。

竹内涼真 撮影:渡邊明音

キーをひとつ上げたら、感情が乗って突き抜けられた

──製作発表で披露されたミュージカルナンバーのうち、「The Greatest Prize」が印象的でした。どんな楽曲なんでしょうか?

一幕ラストを飾る楽曲ですね。トラブルを抱える娘・息子を前にしたマイクが、「17歳に戻れた奇跡を無駄にせず、みんなの絆を絶対に取り戻すぞ!」と家族の“再生”を誓って一幕が終わります。

──マイクの想いが炸裂するナンバーを、竹内さんはどのように歌おうとしていらっしゃいますか?

実は一昨日、製作発表で披露したキーよりひとつ上げて歌ったら……ものすごい感情が乗って突き抜けられたんですよ! ピアノの伴奏がない自宅では、おのずと歌いやすいキーで発声していたようで。

それを先生にお伝えして個別レッスンでも高いキーで歌ってみたら、うまく行って嬉しかったです。

──製作発表の直後にお話をうかがった時も、主人公の感情を表すのに「ハンドマイクだと違和感があったからヘッドセットに変えてもらった」とおっしゃっていましたね。今回も竹内さんなりの試行錯誤が、うまく作用した?

ミュージカル出演の目標として「セリフのようにメロディを紡ぎたい」、もっと言うなら「歌とセリフの境界線が曖昧になるほど融合できたら」と考えていたんですけど。

でも最近、すべてセリフのようによどみなく歌ってしまってはもったいない……と感じるようになって。

主人公の伝えたいメッセージが明確なナンバーではあえて“歌”を強調したパフォーマンスを繰り広げ、お客さんを圧倒する瞬間も大切なのかな、と。

一幕ラスト、二幕に向けて爆発できるところはひとつ音程を上げて、体の内側から湧き出るエネルギーをすべて歌の中に詰め込んだ方が観客の皆さんに刺さる気がした。

谷さんへの相談結果次第ではありますが、そんな気づきがありましたね。