Fukaseの発案が盛り込まれた両角のキャラクター

『キャラクター』 © 2021 映画「キャラクター」製作委員会

実際、主演を張れる人気と存在感はもちろん、そうした役が自然に演じられるこの年代の俳優ということで、菅田のキャスティングは決定した。

一方、殺人犯の両角。求められたのは、意外性と納得感だ。

キャスティングが難航する中、村瀬健プロデューサーから挙がったのが、SEKAI NO OWARIのFukase。その名前を聞いて、原案・脚本の長崎尚志は「もしかしたら僕の知っているFukaseさんとは別の人の話をしているかと思ったくらい」、永井監督は「予期せぬ方向から飛んでくる“蹴り”みたいな衝撃があって(笑)」とも語っている。

そのFukaseも9月1日、菅田と一緒にクランクイン。

しかしこの日は撮影スケジュールの都合で、山城と両角の目が合うシーンまでは行かず、玄関先から両角の肩がのぞくショットでFuakseの出番は終わりになって映画の洗礼を受けた(!?)……というのは、すでに各種ニュースやインタビューでも語られているとおり。

この3日後の9月4日に再び出番を迎え、静岡県駿東郡の山道で第2の被害者家族の車に両角が乗り込むシーンを撮影。両角の無邪気な怖さがひたひたと伝わるスリリングなシーンだ。そして9月21日、東京都千代田区のオフィスビルの地下駐車場で、いよいよ菅田とFukaseの本格的な共演シーンが撮影された。

車に乗り込もうとする山城と夏美(高畑充希)の前に現れた両角。彼は山城と夏美の態度にかまわず、一方的に明るくふたりに思うがまま語りかける。

監督は菅田に高畑をかばう演出をつける一方、Fukaseには「(両角が山城に)シカトされてしまって、思っていたのと違う、と。(両角としては)もうちょっとお話したかったのに……」と両角の心情を語って聞かせる。それを「はい」ときちんと言葉に出しながら、頷いて熱心に聞き入るFukase。

この日、Fukaseと高畑は撮影現場で初対面。段取り後、あらためて「よろしくお願いします」と丁寧に挨拶をするFukaseと、それをやはり丁寧に返す高畑の姿もあった。

オフの方がむしろ畏まっていて緊張感があって、カメラ前で両角となったオンのときの方が大胆で砕けていて自由で……つまりは両角そのものだ。すでに両角を自分のものにしている。

『キャラクター』 © 2021 映画「キャラクター」製作委員会

両角の“キャラクター”に関しては、Fukase自身が反映されてもいる。

例えば、その衣裳は、Fukase自身が普段、油絵を描くときに着ているセットアップを参考にしていて、絵の具の汚れもそのままに採り入れられている。役作りにあたって、両角の心象風景を油絵にしていたFukase。それが監督の目に留まり、新たに描き直されたうえで両角の部屋のモチーフとしても使用されている。

また、リュックの柄を常にぎゅっとにぎっている、首をすくめる、その首と頭を小刻みに動かすという仕草は、菅田演じる山城と初めて対面したときに、自然と出てきたもの。

獰猛な草食動物、もしくは柔和な肉食動物。悪意のない敵意を相手にぶつけてくる禍々しいまでの存在、もしくは敵意のない悪意で相手を飲み込んでいく清々しいまでの存在。そんなピュアでイノセントな殺人犯が見事に作り上げられた。

血だらけのコミュニケーション

『キャラクター』 © 2021 映画「キャラクター」製作委員会

その唯一無二の存在感に、「シンプルに一役者として対峙するのがすごく楽しかったです。両角は本当にFukaseさんしかいなかったですね」と菅田も太鼓判を押す。

ハードな撮影の中、キャスト陣の間でいい気分転換になったというのが菅田の提案で始まった“6文字以上しりとり”で、“ブレーメンの音楽隊”といったFukaseの言葉のセンスに「さすが、アーティスト」と菅田も唸ったそうだが、当初Fukaseは役の関係性もあって、菅田に気軽に話しかけてもいいものかどうか気を遣ったという。

話しかけてもいいものか、スタッフを通じて菅田に聞いてもらったというFukase。「そうしたら菅田くんが“どうぞFukaseさんのやりやすいようにしてください”って、遠くの方から返してもらいました。僕から話しかけ、何とか乗り越えたことは、僕の中では重大なミッションでした」と振り返る。

ふたりがまさに膝を突き合わせて、打ち解けて話していた場面。その様子も密着の中で目にしたが、それはなんと血みどろになりながらふたりが対峙した撮影の際のことだ。山城の自宅のマンションロビーでの山城と両角。その撮影の様子を振りかえってみよう。

9月23日、ロケ地は神奈川県川崎市にある高層マンション。菅田とFukaseにとっては一昨日の地下駐車場の撮影以来となる2度目の本格的な共演だ。ナイフを手にした両角と山城が文字どおりぶつかり合う、格闘シーン。「血がふたりの顔に飛び散ります。ただ、派手というより痛みが伝わるアクションです」と監督。山城と両角、それぞれの本能が動き出して、本性が暴れ出すというシーンでもある。

緊張感あるシーンで、話しかけがたい空気感もある中で、自身のナイフアクションの失敗談をFukaseに語って聞かせる菅田。お互いの緊張を解く意味合いもあっただろうが、アクションはコミュニケーションも大事になってくるもの。対峙してぶつかり合うシーンだからこそ、より密にもなっていく。

血のりで全身血だらけになったふたりだったが、この後のシーンにもつながるため拭けないどころか、さらにまた別の日、別のロケ地でのシーンにもつながるためスタッフが細部まで細かく記録。ふたりはその姿のままモニターでシーンをチェックして、「(血が)こんなに出るとは思わなかった」と驚き、笑い合う。その中で新型コロナの感染対策で距離を取りながらも合間に並んで座り、いつしか話し込んでいたふたり。

このときはSEKAI NO OWARIの映画さながらのMVについて、菅田が俳優の視点から撮影のことを尋ねて、Fukaseがアーティストの視点から自分たちのスタンスを話していた。聞けば、「実は僕、初めて買ったCDがSEKAI NO OWARIだったんです」と菅田。

また、SEKAI NO OWARIは、菅田が出演していた映画『海月姫』(川村泰祐監督/2014年)の主題歌『マーメイドラプソディー』を担当。同作のパーティーシーンをSEKAI NO OWARIのメンバーが見学で訪れ、そこがふたりの初対面だったというが、「あのとき何歳でした?」と思い出話に花も咲いていた。ただもちろん、そこでもふたりは血だらけのまま……。