嵐山小夜子(白石涼子)『セーラー服と機関銃』(『夏のあらし! ~春夏冬中~』挿入歌)

2009年に放映された『夏のあらし!』は、その挿入歌に数多くの昭和歌謡曲のカヴァーが使用された作品としてアニメファンに知られています。

劇中に登場するキャラクターたちが歌う"キャラソン"という形式でカヴァーされた楽曲は、幅広い年代からピックアップをされており、バラエティに富んだ選曲に。云わば「昭和歌謡曲の傑作選」的なセレクションとなっています。

各楽曲のアレンジもオリジナル曲に敬意を表してか、元のメロディを尊重した編曲となっており、いずれも原曲の旋律と歌詞の魅力を存分に味わいながら、各声優の歌声を楽しむことができるバランスの良さが光ります。

『夏のあらし!』と『夏のあらし! ~春夏冬中~』というタイトルで、所謂"分割2クール"という形で放映をされた本作。それぞれの挿入歌をコンパイルした2枚のキャラソンアルバムに収録されたナンバーはいずれも素晴らしく、どの曲も捨て難いのですが、個人的なイチ推し曲は、本作の主役である嵐山小夜子を演じた白石涼子さんが歌う『セーラー服と機関銃』です。

薬師丸ひろ子さんによる原曲を歌い上げる白石さんの歌声が本当に素晴らしく、その歌手としての魅力を強く感じられる1曲です。

この他の楽曲も、出演声優陣の歌声と演じるキャラクターの個性に合わせた選曲の妙や、デュエット曲やコーラスによる歌唱での掛け合いが如何にも楽しく、原曲の音楽的な地力に加えて、"アニソン""声ソン"としての聴きどころも加味された理想的なカバーに仕上がっています。

天の妃少女合唱団『君に、胸キュン。』(『まりあほりっく』ED主題歌)

『夏のあらし!』と同じく、新房昭之監督によるアニメ化作品で、歌謡曲のカバーを主題歌に使用したアニメが『まりあほりっく』(正式なタイトル表記は、「まりあ」と「ほりっく」の間に十字架が入ります)です。

本作の主演声優である真田アサミさん、小林ゆうさん、井上麻里奈さんの3人によるユニット「天の妃少女合唱団」がカバーした『君に、胸キュン。』は、「YMO」が1983年にリリースした"テクノ歌謡"を原曲への愛情タップリにアレンジ。

オリジナルのピコピコしたサウンドと能天気な歌詞はそのままに、そこにエレクトロクラッシュ通過後のモダンな電子音と、ヴォコーダー的なヴォーカルの音声加工を大胆にまぶし、懐かしさと新しさが同居する"テクノポップ"としてリメイクしました。

新房昭之監督は、YMOのファンとして知られており、これまでにもそのフィルモグラフィーにおいて劇中に登場する小ネタやパロディでYMOを幾度となくサンプリングしているのですが、このカバーバージョンの『君に、胸キュン。』は、監督のYMOに対する愛情と敬意の一つの集大成といえるでしょう。

CDジャケットでの"ジャケパロ"も完璧で、テクノポップ、YMOファンならば必聴の1曲です!

ちなみに、カップリング曲の『ネコミミリズム』(沢城みゆきさんが演じるキャラクター「寮長先生」のキャラソン)も良質なテクノポップ曲。そのキラキラした電子音が聴き手の感性を大いにくすぐってくれます。

中野愛子『フレンズ』(『ダンス イン ザ ヴァンパイアバンド』OP主題歌)

監督作における音楽ネタの数々や、『さよなら絶望先生』シリーズでの大槻ケンヂさん(と、大槻さん率いる"パンクチーム"「特撮」)の起用など、テクノポップやロックを中心にその通好みな音楽嗜好を垣間見せてきた新房昭之監督。

『夏のあらし!』や『まりあほりっく』のように劇中歌や挿入歌に歌謡曲のカバーを使用することも多く、この『フレンズ』もそうした先達への音楽的愛情を感じさせる良カバーの1つです。

「レベッカ」の代表曲を現代的に再解釈したナンバーで、編曲を「Elements Garden」の藤田淳平さんが手掛けており、原曲に比べると音数が多く、壮大でゴージャスなアレンジが特色となっています。

オリジナルのバンドサウンドが持つポップでありながらスピード感もあるロックサウンドをメインにしつつも、そこにストリングスの音色を加えることで、より音の広がりと深みが増しており、原曲のグッドメロディに新たな輝きを加えることに成功しています。

また、コケティッシュなNOKKOさんの歌声と比較すると、本曲でヴォーカルを取る中野愛子さんの歌も、中性的でエッジの立った歌唱法であり、全体的に"ロック"なフィーリングが際立つカバーとなっています。

今回、取り上げたカバー曲の中でも、特にオリジナル曲との聴き比べが楽しいナンバーです。