子育てしていて感じる親への感謝
――子育てとともに蘇ってきたというご自身の子どものころの思い出の話にもとてもほっこりします。
山本「子ども時代のことは、子育てしているときにふいに思い出すことが多いです。例えば、子どもが拗ねたとき。『まったくもう!』と思うとほぼ同時に、自分が拗ねたとき、親がどんな反応をしたかを、突然思い出します。
また、朝に子どもを送り出すときの秋の風の音を聞いて、ふっと、子どもの頃、こんな風の音がする秋の夕方に、母が肉まんを買ってくれたなあと思い出したり……。
懐かしい歌を聴いたときや、懐かしい香りに出会ったときにその頃の記憶が呼び覚まされることはみんなあると思うのですけど、それと同じなのかなと思います。思い出した際に父や姉妹に電話して、思い出話に花を咲かせることもよくあります」
――子育てしていて改めて感じる、親への思いも教えてください。
山本「感謝の気持ちがもちろん一番です。
両親は私が中学生のときに離婚したこともあり、感謝が一番なのですがそれだけではない気持ちも本当はたくさんある。でも、離婚してしまっても母とは定期的に会えましたし、親でいようとしてくれていたのかなと思います」
――小さい頃の印象的な思い出はありますか?
山本「幼少期は、楽しい記憶がたくさんあります。
母は実家もとても遠く、仕事もしていて、私たち姉妹を育てながら家の切り盛りをするのはとても大変だったと思いますが、忙しい家事の合間に、私たち姉妹と一緒に庭に出て花を摘むのを見ていてくれたことや、絵を描いてくれたこと、料理を手伝わせてくれたことなど覚えています。
父は、一緒に遊んでくれることはそんなになかったのですが、それでも休みの日に布団でぐるぐる巻きにしてくれたこと、足の上に私たちを立たせて歩いてくれたことなど思い出します。
年に一度、必ず連れて行ってくれたキャンプでは父はとても生き生きしていました。家族みんなでのキャンプを一番楽しんでいたのは父かもしれないですね。今でも、毎年、姉妹とその家族と父とで川に出かけています。
普段あまりそろわない姪や甥たち……父にとっては孫ですが、みんな大集合するので、大人も子どもたちも心から楽しみにしている行事です」
――キャンプの様子も描き下ろしの漫画で描かれていますよね。そんなふうに漫画にして思い出を残すことで特に良かった点はありますか?
山本「子育てしていると、子どもと家のことばかりで時間が過ぎてしまいます。ちょっとコーヒーを飲もうとするだけでも、中断させられてしまったり。
でも、短い時間でも、集中して好きなことをすると気持ちがすっとしますよね。
私にとってのリフレッシュ法が、絵や漫画を描くことでした。子どもの記録もできて、一日の記録もできて、自分もスッキリできて、後から読み返して楽しむこともできる。家族もとても喜んでくれるので続けてこれています」
――きょうだいについて、今後楽しみにしていることはなんでしょう。
山本「思春期が近づいてきて、楽しみというよりもちょっと怖いというのが正直な気持ちです。反抗されたとき私はどう対応するんだろうか、ちゃんと親として向き合えるだろうかと不安です。
でも、年頃の可愛い女の子やかっこいい男の子を見ると、『うちの子もあんなにかっこよくなったり可愛くなったりしたらいいな』とウキウキしたりもします。
最近、上の子どもたちが友達を家に誘うことが増えてきました。いつもリビングで遊ぶので、私も家事をしながらみんなの会話を聞いています。
小学生独特の言い回しやリアクションはもちろん、みんなが持ってくるものもとても楽しいです。たまに虫などの標本を持ってきてくれて驚いてしまうこともありますが、自分の好きなものの話をしている姿はみんな生き生きしてかわいいです。
長女のお友達との会話も、『家族以外とだとこういうふうに話すんだな』とか、いろんな発見があり、とても楽しい時間です」
――3人の成長が楽しみですね。漫画は、今後も続いていく予定ですか?
山本「今後も3人の子どもたちと家族の日常を描き続けていきたいのですが、子どもからNGが出ることも増えてきたので、3人の子どもたちがもっと小さかった頃の話を描いていこうかなと考え中です。
育児で悩んだことや、子どもが病気や怪我をしたときのことなども、昔のことなら思い切って描けそうですし、子どもからのNGも出にくいかなと。
また、夫の話や自分の子ども時代の話ももっと描いていけたらいいなと思っています」
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きょうだいのエピソードだけでなく、ときに山本さんご自身の子ども時代の記憶も振り返って描かれる漫画は、読むと自分の親やきょうだいのことを思い出して温かい気持ちになったり、子どものことをより愛しく思えたりします。
きっとあっという間に過ぎていくであろう、子どもが小さいうちの家族時間を、もっと大切にしよう……そんなふうに思える1冊です。