卵かけご飯はなによりのご馳走である。
炊き立てのご飯に生卵をかけ、醤油をぶっかけて食べるだけなのだが、のどごしが良く、絶品。
酒を飲んだ〆には卵かけご飯がかかせない、という友人もいる。
「ちりめんドレッシング」でやるぶっかけご飯も、また格別。
スプーンですくったドレッシングをアツアツのご飯にかけてかっこむ。ただそれだけ。
ご飯にかけるドレッシングなんて聞いたこともない。
けれどドレッシングだろうがなんだろうが、うまいのだからしかたがない。














このなんとも不思議なドレッシングを考案したのは、
広島県福山市にある「おばんざい木むら」である。
おばんざいとは、京都で受け継がれているような家庭料理をさす。けっして高級料理ではない。
ないが、真心こめて作った、日常のおそざいを食べさせてくれるのが、おばんざい木むらだ。
女将が作るコロッケがこれまたおいしいのだが、それはまたの別の機会に……。


今回は、おばんざい木むらのちりめんドレッシングの話をしようと思う。















原材料は広島産ちりめん、青森産ニンニク、醤油、
イタリア産エキストラ・バージンオリーブオイル、鷹の爪。これだけ。
タケノコなどの癖の強い春野菜を使ったサラダ用に考えられたドレッシングだそうだ。














もちろん、トマトやレタス、キュウリなどにかけてもうまい。
ところがある日、ある人が「炊き立てのご飯にかけたらどうだろう」と思いつき、遊び心でやってみた。
するとこれがそんじょそこらのふりかけよりも美味だった。
醤油とニンニクの風味が食欲をそそる。これはハマる。


「オリーブオイルを使っているのだから、パスタとの相性もいいのでは」と誰もが思うだろう。
アルデンテに茹でたパスタ(個人的にはショートパスタが好み)を、
この不思議なドレッシングと和える。
ただそれだけなのだが、下手な店で食べるパスタよりも断然うまい。
ニンニクの香りと、ぷちぷちした食感のちりめんがハスタともあう。
そしてなによりも醤油の風味がこたえられない。

日本人が大好きな醤油と、イタリア料理を代表する食材パスタとの融合。
明太子パスタを考えた人も偉いと思うが、この組み合わせが絶妙である。
醤油風味のオリーブオイルと和えるパスタを、イタリア人にもぜひ食べさせたいものだ。














目玉焼きは醤油かソースか、という議論がある。
わたしなら、ちりめんドレッシングと答える。
料理と呼べないような単純な食べ物も、
この摩訶不思議なドレッシングがよりおいしくしてくれる。
黄身を割り、ちりめんドレッシングとぐちゃぐちゃに和えて食べたほうが断然うまい。
濃厚な黄身と醤油風味のオリーブオイルが不思議とあうのだ。














料理なんかしたこともないし、できないとおっしゃる御仁もいるかもしれない。
そんな人にはご飯同様、冷奴をすすめる。














茹でた小松菜やほうれん草にかけてもこれまたいい。
醤油を使った万能調味料だと思えば、和食でも洋食でも使える。














あとひと月でお正月。
「お節に飽きたらカレーもね」というコピーがあった。
焼き餅に飽きたら、ちりめんドレッシング。
焼き立ての餅にこいつをかける。
醤油と焼き海苔で食べる餅とはひと味違った風味が愉しめる。
まだ試していないが、湯豆腐にもあうそうな。おためしあれ。

 












【関連リンク】
おばんざい木むら
住所:広島県福山市三吉町南2-9-22
ちりめんドレッシング 180cc入りで750円

東京五輪開催前の3歳の時、亀戸天神の側にあった田久保精肉店のコロッケと出会い、食に目覚める。以来コロッケの買い食いに明け暮れる人生を謳歌。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』、『自家菜園のあるレストラン』、『一流シェフの味を10分で作る! 男の料理』などの他、『笠原将弘のおやつまみ』の企画・構成を担当。