収録パートも織り交ぜた、未知の映像表現
事前の収録パートを織り交ぜる演出は、ともすれば生配信ならではのリアルタイム感が削がれる可能性も孕んでいるはず。しかし観進めると収録パートのクオリティの高さはもちろんのこと、生ライブの中に差し込まれる意義と必然をしっかりと感じられる構成となっていることがわかります。
わかりやすいナマっぽさよりも、一夜限りだからこそまだ誰も観たことのない映像表現を届けたい。表現者としてのそんな意思が「生配信=すべてのパフォーマンスをリアルタイムで届ける」という固定概念をも取っ払ったのでしょう。ここにも彼らの攻めの姿勢は貫かれていると思います。
一方、本編の大部分を占める生配信パートも非常に濃密。配信ライブではアリーナ席に座席を並べ有観客の雰囲気を踏襲した演出を行うアーティストも多いですが、本配信ではアリーナ内にセットを組み舞台演出に活用。さらにスタンドのコンコースなども活用するなど各所をセットリストの中に組み込んでいて、ここでも聖地・代々木の新たな表情をみることができます。メンバーの戯れに多幸感があふれまくるスタンド通路パートは必見です。
そこにV6持ち前の撮影技術(こちらはぜひ過去のライブ作品、そしてラストツアーの映像配信も合わせてご参照を)と6人の気迫のこもったパフォーマンスが加わることで、ポジティブな意味で本当に生配信なのか?と疑いたくなるクオリティのライブ映像が実現しました。
選曲にも表れたアグレッシブな姿勢、特に響いた1曲
また選曲についても触れたいところ。この配信ライブは、セットリストを見ると分かる通り、所謂誰もが知るパブリックイメージとしての代表曲がほとんどと言っていいレベルで歌われていません。代わりに近年の新作群、また過去作からはアルバムやシングルのカップリングからの選曲がメインとなりました。
先述の通りジャニーズの配信公演はファンクラブ会員でない一般層でもチケットを購入できることも多く、本公演も一般チケットが販売されていました。つまり、熱心に追いかけているファン以外のアイドル・音楽ファンが、初めて彼らのライブに触れる機会でもあったわけで、そのセットリストから誰もが知る鉄板の代表曲の割合を下げることは、大きな挑戦だったはず。
しかしその結果は、前述した先鋭的かつハイクオリティな演出も相まって、25周年のアニバーサリーライブであるにも関わらず、集大成感よりも徹頭徹尾“最新系のV6”が炸裂した、非常に挑戦的かつ記念碑的な配信ライブとなったのです。
このライブが仮に有観客ツアーとして行われていたとしたら、たとえ同じセットリストでも演出面では全く違った内容になっていたでしょう。『For the 25th anniversary』は、コロナ禍という不測の事態によってもたらされたであろう“一夜限りの無観客配信”という形態だからこそ生まれた、異形かつ至高の映像作品なのです。
最後に。すでにソフト化もされている公演ではあるものの、これから初めて観るという方のために具体的なパフォーマンスの細部については記述を控えますが、1つだけ楽曲にも触れておきます。