コメディ主体の『侵略!イカ娘』『ケロロ軍曹』
安部 真弘(著)
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侵略モノはなにも人がバタバタ死んでいくハード展開だけじゃない。もう1つの大きな流れとして“侵略者がいつの間にか人類と共存する”タイプのコメディ作品も人気だ。
そちらの方面で近年ブームになったのは『侵略!イカ娘』。原作は週刊少年チャンピオン連載のコメディ漫画で、2度にわたってアニメ化された。海洋を汚染する人類に鉄槌を下すべく、海からの侵略者がやってきたわけだが、その侵略者は語尾に「~イカ?」「~でゲソ」を付けるキュートな少女。予想しなかった地上人の高度な文明に驚愕し、海の家に居候しながらまったり地上侵略を目論む……といった日常系コメディ。
とにかく作品の見どころは“イカちゃんかわいい”の一言に尽きる。原作を知らなかった層もアニメ化と同時に続々とファンになり、イカ娘の独特な口調はアニメ化された年(2010年)にネット流行語3位を獲得した。アニメ第3期を待ち望むファンの声も多く、文化的な侵略ならすでに成功している気もする。
吉崎 観音(著)
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また、同系統作品なら『ケロロ軍曹』を忘れてはならない。連載14年の歴史を誇り、TVアニメも全357話という大ボリューム。地球侵略の先遣隊としてやってきたカエル型宇宙人(ケロロ)とその仲間たちが、やはり地球の人々に懐柔されて居候しながらドタバタを巻き起こすというお話。危険度はイカ娘よりも高そうだが、ギャグ漫画のお約束で地球侵略は遅々として進まない。何よりも地球のガンプラを愛するケロロ軍曹は、人類を滅ぼせるチャンスがあっても静岡県(ガンプラ工場がある)を気遣って実行に移せないなど、見事なまでのヘタレぶりで毎回侵略に失敗する。
こうした「ミイラ取りがミイラになる」「人類より優れているはずの種族が人類に屈服する」「なぜか異種族なのに日本のカルチャーが大好き」といった要素のいくつかは、ほかの人気作にも共通して見られる。たとえば現在アニメが好評放送中の『這いよれ! ニャル子さん』『よんでますよ、アザゼルさん。』も厳密な侵略モノではないにせよ、同様の特徴を備えている。
シリアス系とコメディ系、両方の特徴を備えた『暗殺教室』
松井 優征(著)
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ガチで侵略者と戦う『進撃の巨人』『テラフォーマーズ』、侵略者とほのぼの日常生活をおくる『イカ娘』『ケロロ軍曹』、この両面を備えた作品もある。ちょっと古いところでは『寄生獣』だ。人類を捕食する謎のパラサイト(寄生生物)が登場したところから始まり、人類とパラサイトが死闘を繰り広げながら最終的には共存の道を歩む。主人公とパラサイトの種族を超えた友情描写がすばらしく、全体のストーリー構成も見事な傑作だった。
大ヒット中のジャンプ漫画『暗殺教室』もそうしたカテゴリに入りそうだ。登場する殺(ころ)せんせーは地球を侵略どころか丸ごと破壊しようとする最凶の超生物だが、普段はギャグパートを担当する腰の低い中学教師。最終的にシリアスとギャグ、どっちの展開になるかがいまだ予想できない。
幼いころは戦隊ヒーロー番組で、成長してからはアニメや漫画で、考えてみれば日本人が触れる作品のなかで“侵略モノ”は意外に少なくない。しかも「侵略者が攻めてきた!人類の反撃だ!なぜか大統領が強ぇ!アメリカ万歳!」といったハリウッド的展開ばかりではなく、天敵なはずの存在と融和・共生していく作品が目立つ。侵略モノがこうした多彩なバリエーションを見せるのは、さすが日本のサブカルチャーだ。