黄金色に揚がった衣。ラードの香ばしい香り。箸でつまんだ瞬間、パン粉が音を立てて崩れ落ちる。ソースと渾然となった豚肉の甘み……。
そんな五感を刺激するトンカツを探求する店が、五反田にあった。先日「ミート矢澤」(五反田)を取材した際、近所にあった「あげ福」である。
店内にはラードの香ばしい香りが漂っており、〈これはただものではない〉とにらんだら、まさにその通りであった。聞けばミート矢澤と同じ「精肉卸ヤザワミート」の直営店であるという。
10年ほど前、肉屋のコロッケとメンチカツを買い食いしていたことがある。旨そうな店構えの肉屋があると、コロッケとメンチカツを揚げてもらったのだ。
ところが、味よりも何よりもがっかりさせられたことのほうが多かった。ラードの香りがしない店が大半だったのだ。近頃ではトンカツ屋でもラードを使わない店が増えているらしく、何度も裏切られてきた。
ところが、あげ福のドアを開けた瞬間、ラードの香りで鼻が動き出した。うー、いい香り。カウンター席に座った途端、わくわくしてきた。
さっそく「上ロース定食」を注文。肉は岩手のブランド豚「岩中豚」。
下味を付けた豚肉にパン粉を付けるのだが、こんなパン粉は初めて見た。パン粉の粒が巨大なのだ。しかも真っ白。パンの耳を使っていないらしく、真っ白なのである。
原英樹店長は、このパン粉を肉にまとわせ、岩中豚を白い貴婦人に変身させた。
「岩中豚は脂に甘みがあるので、甘みを含んだ、粗目のパン粉を特注しています」と原店長は胸を張る。
パン粉を丁寧に付けたらすぐに揚げず、1分ほどパン粉を肉になじませる。
油はラードと米油のブレンド。米油で揚げるとからりと揚がり、しかもラードも使っているので、芳しい香りも楽しめるというわけである。
フライヤーは低温用と高温用を用意。低温でじっくりと揚げたら、高温の油に移し、すぐに取り上げる。カットしたら、キャベツが盛られた皿に移し、客が待つテーブルに。
揚げたてのトンカツは中心がピンク色だった。テーブルに届いたとき、予熱でベストの状態になるように心がけているという。
黄金色に輝く衣と肉のコントラストが美しい。これを特製ソースか、塩で食べる。塩といってもふつうの塩ではなかった。