文豪・谷崎潤一郎の3つの作品を原案に、現代劇にアレンジした3本の映画のシリーズ「TANIZAKI TRIBUTE」。その第1弾として1月27日に公開になるのが『神と人との間』です。
原作は、谷崎が自らの夫人を親友の作家・佐藤春夫に譲った、当時の一大スキャンダル「細君譲渡事件」をもとにしています。
映画では、これを町医者・穂積(渋川清彦)と親友の売れないマンガ家・添田(戸次重幸)のねじれた友情と、2人の間で翻弄される熱帯魚屋で働く女性・朝子(内田慈)の物語として描いています。
今回は添田を演じた戸次重幸さんに、映画の登場人物に対する想い、そして人生に変化をもたらす考え方などを伺いました。
プライベートでは知り合いになりたくない!? 優柔不断な登場人物たち
――戸次さんは、ご自身が演じた添田という男をどう見ていましたか。
端的に言うなら自己中心的な考え方・生き方をしてきて、最後までそれを貫いていく人間です。他人に対しても、何の疑いもなく「自分がいいと思っていることは、あなたにとってもいいことでしょ」と考えている人間だと思います。
――確かにかなり特異なキャラクターで、役作りが大変だったように思いました。
誰かに対して怒っているかと思えば、そのすぐ後に泣きすがるというふうに、1シーンの中で気持ちが上がったり下がったりするような役柄だったので、撮影の最初のころは添田がなぜそういう行動をとるのか、監督に事細かに確認しながら演じさせて頂きました。
――そんな添田に虐げられ、時に挑発されながらも、なぜか友人としていつまでもつながっているのが町医者の穂積です。役を離れ、戸次さん個人としては、穂積の気持ちは理解できますか?
穂積に限らず、添田や、2人の間にいる朝子の気持ちも理解できませんでした。僕は優柔不断という言葉とは真逆のタイプなので、決断できずにずーっとウジウジしている人間の気持ちは分かりません(笑)。
――もし近くに添田や穂積のような人がいても、友だちになることはなさそうですね。
友だちにならないし、なるべく距離を置いて、視界に入らないようにします。精神衛生上、こういう人とはなるべくかかわらずに生きていきたい、そういう人に私はなりたい(笑)。
勇気ある決断をすることが人生を変える
――そんな不思議な関係の2人の間で揺れ動く朝子の恋愛はどう感じましたか?
朝子もダメな人間だと思います。いつまでも心を決められず、行動もできない依存体質な女性は好きではないですね。自分で重要な決断ができないくせに現状に文句ばっかり言ってる人、個人的には苦手です(笑)。
――現実の生活の中では、会社を辞めたいと言いつつも同じ職場で働き続けている人や、恋人に不満を感じながらなかなか別れられない人もいます。
現状を打破したいなら、一握りの勇気、血を流す勇気っていうのは必要だと思います。僕はプライベートの中で血を流して来たので、そういう人を見るとやりきれない思いがします。
――戸次さんが血を流す勇気が必要だった経験には、例えばどんなことがあったか教えていただけますか。
北海道で活動していた時代の所属事務所から今の事務所に移るときですね。大きな決断でしたが、あの勇気がなければ今のような状況にはなっていなかったと思います。