昔からよく言われる「ほめて伸ばす」という言葉。近年は子育てでも「ほめて伸ばす」のをよしとする傾向が強くなっています。
しかし、いざ自分の子どもをを褒めようとしてもどのように褒めればいいか分からない、褒めるのって難しい…と感じる人も多いかもしれませんね。
三重県にある南部自動車学校は2013年から「生徒をほめてほめて、ほめちぎる」という教習を実践したことにより、合格率の上昇、事故率の低下、生徒数の増加を達成した世にも珍しい自動車教習所。
『「ほめちぎる教習所」のやる気の育て方(KADOKAWA)』では、ほめ方のノウハウや、効果が細かく記されています。
本著の著者である南部自動車学校代表、加藤 光一社長と監修をつとめた坪田塾、塾長の坪田信貴さんに効果的なほめ方、ほめることのメリットなどを伺いました。
ほめられた方以上に、ほめる方が「仕事がしやすくなった」など大きな効果がありました(加藤)
ーまず「ほめて伸ばす」ことの効用についてお伺いしたいです。具体的に「ほめることで、普段以上の実力を発揮できた」というようなエピソードもあれば合わせて教えていただけますか?
加藤 光一社長(以下、加藤):まず、ほめることで相手が気持ちよくなる、そしてその表情を見て自分も気持ちよくなり、明るい空気、環境が生まれていいスタートを切れる、ということが大きいですね。
よく「叱ることはダメなのか」と聞かれるのですが、叱ることを否定しているわけではないんです。ただ、「叱られないようにこうしよう」というよりはほめることで「次は更によくしよう」と本人の主体性が生まれる方がいいなと思っています。
「ほめる教習」を実践したことで当校は合格率が上がりました。そして指導員のストレスが減り、とても仕事がしやすくなったというのがあります。
できないところを指摘するような指導では、生徒さんができないことが治らないと「どうしてできないんだろう?」「自分の教え方が悪いのだろうか」とストレスを感じてしまっていたのですが、できていることをほめることで成長していくスピードが速くなり、指導が楽になったとヒアリングしていて分かりました。
ほめられる側以上に、ほめる側にメリットがあったということですね。
坪田信貴さん(以下、坪田):そもそも「叱る」ことで何かメリットがあるのか?と僕は常々思っています。
心理学では叱って相手に言うこと聞かせることを「フィアアピール」と言うのですが、これは短期的にはモチベーションも高くなるけど、締め切りがないとやらない、とかネガティブなことがない限りは動けなくなってしまって長期的にはプラスにならないんです。
ほめて伸びたエピソードとしては勉強したくない、塾なんて行きたくない、と言っていた生徒さんにとりあえずテストを受けてみて、とペンを持たせたのですが、しばらくすると「もうどうでもいい」とペンを投げたんです。
ペンを投げるのは本来は叱るところかもしれません。しかし僕は「最初はまったくやる気がなかったのに、ペンを持ったってことが前向きにやってみようとした証拠じゃない?」と彼をほめました。
そうすると彼は「先生面白いな!普通そこ怒るところでしょ!」と笑い、そこから勉強してみようかな、という気になってくれ、1年後には医学部に進学しました。
ペンを投げ出したってことに着目してしまいがちだけど、なかなか気づかないちょっとした変化を「ほめた」結果だと思っています。
「調子に乗るほどほめる」のは相当難しい。それができるなら調子に乗らせたらいいんです(坪田)
ー一方で「ほめると調子に乗る」という意見もありますが、お二人はどのように考えていらっしゃいますか?
加藤:そもそもほめるというのは次の難しいステップに行くための自信をつけてあげたりモチベーションをあげるものですから、指導員にはほめたら次はこれをやってみよう、とステップを明確にするように伝えています。
ほめるだけで終わってしまうと「自分はできるんだ!」とのぼせ上がってしまうかもしれません。
坪田:ほめると調子に乗るんじゃないか?と危惧する人もいますが、まず「調子に乗るほどほめる」というのは非常にレベルが高いことです。
ほめるには語彙も経験も必要なのに、簡単に調子に乗せられると思うことがまず間違いです!
会社だってみんながシュンとなってるより、みんな調子に乗って「やろうぜ!」ってなってるほうが伸びそうだし、子どもだって叱られてばかりより調子に乗っているくらいの方がいいと思いますよ(笑)