コロナの影響

朝鮮戦争が休戦になったのは1953年。休戦直後の我が国は世界最貧国のひとつだった。

60年代はベトナム戦争への派兵や韓日基本条約の締結で、米日から多額の援助を受けたが、まだまだ混乱期。

60年代の鍾路3街、とくに宗廟辺りは外娼が客引きする、いかがわしい場所だった。

一夜の相手を見つけるため景気づけに一杯やる人のための一杯飲み屋が多かったが、当時の雰囲気を伝えるのは、宗廟を背にしたとき右手に見えた「ドレミ・ジャンスルチプ」と左手の「トゥンスンネ」くらい。

2020年の春以降、コロナ禍による外出自粛で2軒とも営業は不振だった。

男性がオーナーだった『ドレミ・ジャンスルチプ』は持ちこたえられず廃業した。

「トゥンスンネ」もダメージは大きかったが、より集客しやすい場所への移転を計画。

この夏、鍾路3街の西の端、タプコル公園の北門近くに移転した。

以前のように店の外にカウンターはない。入口が二重になっていて、入ってすぐのところにあるカウンターに食べ放題のつまみが並んでいる。右から煮干し、大根のキムチ、味噌ダレ、ニンニク、醤油ダレ。栓抜きの隣はチヂミ。つまみの種類は半減したが、物価高、とくに野菜の高騰などを考えるとやむをえないことだろう

オーナーにとって立ち飲み屋は日韓交流の場ではない。あくまでも商売。生き残りに必死である。

商いのスタイルはやや変わったが、鍾路3街の歴史の証人ともいえる立ち飲み屋がかろうじて残ったのはうれしいことだ。

移転前は、飲み代だけ払えば食べ放題のつまみが数種類並んでいるだけだったが、新店舗では一品メニューもできた。上からニラのチヂミ6000ウォン、果物5000ウォン、豚肉炒め、イカ炒め、ヌタウナギ、豚カルビ、鴨肉焼き(いずれも1万ウォン)

「トゥンスンネ」住所:鍾路区楽園洞290-1 営業時間:10時頃~19時頃 無休

鄭銀淑:ソウル在住の紀行作家&取材コーディネーター。味と情が両立している食堂や酒場を求め、韓国全土を歩いている。日本からの旅行者の飲み歩きに同行する「ソウル大衆酒場めぐり」を主宰。著書に『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』『釜山の人情食堂』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』など。株式会社キーワード所属。