ソウルの東のはずれ、生活感たっぷりの市場と飾り窓

2005年の千戸市場の姿。この十年前も十年後も雰囲気はあまり変わっていない

筆者が育ったのはソウルの東のはずれ、江東区の千戸洞(チョノドン)という町だ。

子供の頃、母に連れられてよく行ったのが、漢江の近くにある千戸市場(チョノシジャン)。

1970年代のソウルでは日常の買物をするところといえばスーパーやデパートではなく市場だったのだ。

私と同年代(60年代後半生まれ)の日本人は市場とは無縁の人が多いようだ。

しかし、我が国では朝鮮戦争が休戦になったのが1953年で、70年代は工業力では北朝鮮に後れをとっていたような状況だった。

韓国の市場は主に半島の北部から南下してきた戦争避難民や、仕事を求めて半島南部から北上してきた人によって形成されてきた。

千戸市場の大衆酒場街。この裏手に千戸テキサスと呼ばれる色町が広がっていた

千戸市場は大規模マンション群の建設工事が始まった2年前に完全に撤去され、更地になり、私の記憶と写真の中にだけ存在する。

それでも市場周辺の大衆酒場はかつての雰囲気を残しているので、日本のみなさんもぜひ遊びに来てほしい。

千戸市場と千戸テキサスの跡地には、すでに高層マンションが建ち始めている

鄭銀淑:ソウル在住の紀行作家&取材コーディネーター。味と情が両立している食堂や酒場を求め、韓国全土を歩いている。日本からの旅行者の飲み歩きに同行する「ソウル大衆酒場めぐり」を主宰。著書に『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』『釜山の人情食堂』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』など。株式会社キーワード所属。