松山ケンイチ扮する42人の命を奪った連続殺人犯の斯波宗典と、長澤まさみ演じる彼を裁こうとする検事・大友秀美が真っ向から激突する衝撃の社会派サスペンス『ロストケア』。
本作で秀美をサポートする検察事務官の椎名幸太に扮した鈴鹿央士が、緊迫した撮影の裏側と俳優としての現在を語った。
現代の「介護問題」を浮き彫りにした『ロストケア』
第16回日本ミステリー文学大賞新人賞に輝く葉真中顕微の小説「ロスト・ケア」を原作にした本作が数多あるサスペンス映画と一線を画すのは、斬波が人望の厚い献身的な介護士で、彼が殺めたのが自分が担当する要介護度の高い老人たちということ。
そして、自分の行為を「殺人」ではなく「救い」と主張する斬波によって、法のもとで人を裁く秀美の正義と常識が揺らいでいくところだ。
そこでは現代の日本の社会が抱える高齢者をめぐる介護の問題が浮き彫りになり、椎名として初めてその問題と向き合った鈴鹿も「自分が介護や家族に対してどんな意識を持っていたのが考えるきっかけになりました」と語る。
自分が思う介護や正義はどういうものになるのか分からない
「ただ、斯波が自分の父親(柄本明)を自宅介護している回想シーンなどは実際に映画になったものを観ないと自分がどう思うのか、自分が思う介護や正義はどういうものになるのか分からないなと思ったのも正直なところです」
椎名は得意の数学で事件にアプローチし、斯波が犯した事件の全容に迫る活躍を見せるが、前田哲監督(『こんな夜更けにバナナかよ 愛しき実話』『老後の資金がありません』)から「数字を読むと楽しくなっちゃう感じでやって」と言われた鈴鹿は「どうすれば楽しそうに見えるのかな~と思って(笑)」と振り返る。
「難しかったですね。ワクワクしている感じでやってみても、『まだちょっと物足りないかも』って言われましたから。
でも、椎名が数字から気づいた謎解きの答えが事件解決に向かうきっかけになるので、そのときの興奮や喜びをすべてひっくるめてやったら『あっ、そういう感じで』ってOKが出て。そこに持っていくまでが、今回はいちばん大変でした」
それこそ、椎名の立ち位置は観客に近いもので、鈴鹿もそこは意識していたという。
椎名の言葉に「僕と同世代が何を受け取るか」のヒントが隠されている
「今回の映画にもヤングケアラーと言われる男子高校生が介護をしているところが少しだけ描かれていますけど、僕と同世代の人たちの多くは『介護なんてもっと先の話でしょ』って言うと思うんです。
僕はそんな彼らにも本作が描く大切な問題を伝える役割を担っていたような気がしています。
椎名が涙を流すシーンは観ている人たちも涙を流すタイミングじゃないかなと思ったし、ラスト近くの雨が降っている日のオフィスのシーンで椎名は秀美さんに自分の気持ちを吐露しますけど、あの言葉には僕と同世代が何を受け取るかのヒントが隠されていると考えています」
だが、その椎名が発するセリフの多くは繊細で微妙なバランスが要求されるデリケートなもので、鈴鹿も「パソコンのキーを叩き、画面の情報とタイミングを合わせながら覚えてきた頭の中にあるものを口にしなきゃいけなかったので、たまにセリフが飛んだり、自分が何を言っているのか分からなくなることもありましたね」と苦笑する。
「それに、セリフが説明的になるのはよくないけれど、椎名は事件を解決に導く役でもあるので、彼が何を話しているのか観ている人たちに分かってもらわなければいけなくて、その匙加減が難しかった。
でも、そのバランスは、監督の前田さんが現場で見ながら上手く調整してくださったので、僕は監督の指示にただ『はい』って答えながら従っている感じでした(笑)」