鈴鹿にとってターニングポイントとなった出会い
そこで、鈴鹿にもターニングポイントとなる人や作品などとの出会いがこれまでにあったのか? その出会いが自身にどんな影響を及ぼしたのか? 聞いてみた。すると、「けっこう毎現場そうですね」という答えが瞬時に返ってきた。
「『蜜蜂と遠雷』(19)で映画が本当に好きになったし、作り手側に素敵な人たちが集まっていたから、みなさんのことが大好きになって。
その人たちからもらった言葉はいまでも自分が作品と向き合うときのキーワードになっているぐらい大切なものなんですけど、あの映画があったらからお芝居が好きだ、お芝居を続けていきたいって思えたんですよね」
2018年の「第33回 MEN’S NON-NO 専属モデルオーディション」でグランプリに輝き、翌年から専属モデルになったことも、鈴鹿の人生においては大きな出来事だった。
「服に興味を持つようになったし、服のことが好きになりましたから。でも、それ以上に、僕をいつも温かく迎えてくれるホームのような場所が見つかったのが大きかったですね」と鈴鹿は強調する。
「映画もドラマも現場のスタッフは毎回変わる。だけど、MEN’S NON-NOのチームはあまりメンバーが変わらないから、自分の拠りどころでもあるし、頑張ろうと思う原動力のひとつにもなっているんです」
これまでの出会いがすべて好意的なものだったわけではもちろんないが、鈴鹿は自分に対する否定的な意見もポジティブなものとして受け止めている。
『決算! 忠臣蔵』での経験はいまでも自分の糧
「『蜜蜂と遠雷』の1ヶ月後に撮影に入った『決算! 忠臣蔵』(19)という2本目の映画で、中村義洋監督から『ヘタクソ!』って言われて(笑)。
『いまのはOKだけど、本当のOKではないOKだから』という言葉を残して立ち去られたので、そのときはどういう意味なんだろう? と思いましたね。
でも、その作品でキネマ旬報の新人男優賞をいただいたし、いまになって、あっ、そういうことだったのか!って気づいたこともあるんです。
それこそ、ひとつの作品で評価されたからと言って、次の作品もいいとは限らないということを身を持って知ったので、『決算! 忠臣蔵』での経験はいまでも自分の糧にもなっていますね」
とはいえ、同年にはNHKの連続テレビ小説「なつぞら」の第142話から最終話まで出演する幸運に恵まれ、この現場での出会いも大きな刺激になった。
「自分の初めての地上波のドラマが朝ドラだったのは、いまでもスゴいことだったなと思います。
(広瀬)すずちゃんと現場で初めてお会いしたのもあの作品だし、染谷将太さんを始めとしたスゴい人たちがそれぞれに大きいものを背負いながら出演されていたので、その後ろ姿を見て、自分も作品に対する責任感を持たなきゃいけないなと思いました」
「そんな感じでターニングポイントは毎作品あって、毎回いろいろな影響を受けているんです」という鈴鹿の言葉が嘘ではないことを、彼の瞳がどんどん輝きを増し、声に張りが出てきたことが証明していた。
「今回の『ロストケア』でも、ホン(台本)読みのときから『このシーンってこうだよね』『このセリフ、ちょっと違うと思うんだけど』って熱い意見を戦われている松山さんと長澤さんに驚いて。
僕はこれまで、ホン読みって、台本に添ってただ読むだけの作業だと思っていたんですけど、おふたりの場合はその段階から役作りが始まっていたんですよね。
もちろん、それが自分に合った方法なのかどうかはやってみないと分からないです。でも、最前線で活躍されている方々のスゴさを実感したし、お芝居と真剣に向き合っているおふたりの姿勢を見て自分もそうでありたいなと思ったので、この作品も間違いなくターニングポイントの1本になると思います」
ひとつひとつの仕事と真摯に向き合い、それぞれの出会いを確実に自分のものとしながら少しずつ進化し続けている鈴鹿央士。
ドラマ「silent」(22)で見せた健気な芝居も好評で人気急上昇中だが、少しも驕ることなく、常に孤独な作業を喜びに変えているその眼差しの先には何があるのか? 彼が次のステージに立つ姿を目撃するのが楽しみでならない。