地道に積み重ねられた、アーティストとしての活動
加えて「香取慎吾=絵を描く人」というイメージが一般に広まっていった理由のひとつとして、彼がテレビや雑誌などでたびたびイラストを披露していたことも挙げられるだろう。
2001年にスタートしたテレビ番組『SmaSTATION!!』と連動して、その週の放送内容をまとめたフリーペーパー『SmaTIMES』では、毎週描き下ろしのイラストが掲載された。そこには今回の作品のセットに飾られた絵画にも登場する、彼のシンボルキャラとも言えるモチーフ「黒うさぎ」も多数登場していた。
また2005年に放送された『SMAP×SMAP』SPでは、中居正広のクイズの回答をいじってフリップに描かれた架空の生物「テロテアリーナ」が登場。のちに中居の罰ゲームとして着ぐるみが制作されるなど、番組の企画に発展した例もある。
絵画以外にも、香取はアーティストとしての顔をみせる活動を行っている。
1日1枚、毎日撮影した写真と短文を1年分まとめた2006年の書籍『SNAP NO SHINGO』では、発売記念イベントを元小学校の施設で開催。書籍の世界観を教室などのスペースを使って展開するインスタレーション的なアプローチは、限られた期間・場所での開催がもったいないほど、充実の内容だった。
また2016年には、無類のファッション好きである側面にスポットをあてた書籍『服バカ至福本』を発表。また違った角度から彼のアートセンスを感じることができる。
この他にも挙げればキリがないが、実際に生み出された作品を見ていくと、その表現力は年々豊かさを増していることが分かる。現在のアーティスト・香取慎吾の充実ぶりは、その華やかなイメージとは裏腹に、極めて地道かつ実直な活動によって積み重ねられたものなのだ。
とは言え、もちろんこれらの活動の多くは、グッズや書籍などの企画として制作されるなど、アイドル・香取慎吾の活動の一部として展開されたものも多い。
それらと今回の映画で用いられる絵画の最も異なる点は、香取のよりパーソナルな側面が反映されている作品たちである、ということだ。
本作で観ることができる、香取の姿とは
香取は、自身の創作活動について「僕の場合は絵に自分の心情が映し出されちゃうところがある」と語っている。とするなら、本作に登場する、これまで公にすることなく描き溜めていた絵の数々には、これまで私たちが目にすることのなかった香取の一面が刻まれているはずだ。
そう考えると、そんな作品たちが重要なファクターとなっている本作について、「映っているのはほぼ普段の僕のまま」とまで言い切る香取の発言にも納得がいく。作中でどれだけ彼の作品を確認できるかはわからないが、その絵たちから発せられるエネルギーは、画面からでも十分に感じられるのではないだろうか。
さらに見逃せないのは、香取にとって絵を描くことと同じく、大事な表現手段であり続けてきた「歌」も本作の重要なテーマとなっていることだ。作中で香取は他人の歌を食べて生きる存在=歌喰いに“歌を奪われてしまう”。その設定について香取は「僕自身も最近、歌を奪われてしまったと言うか、同じような感覚があったんです」と語っている。
このように本作には、アーティスト・香取慎吾の活動や、現在の香取の境遇と重ね合わせると、いかようにも深読みできる要素が散りばめられている。
しかし、人間の表と裏を丹念に描いてきた山内ケンジ監督が、単なる現実の写し鏡として安直に彼の絵画を用いるはずはない。香取もそこに信頼をおいているからこそ、プライベートな表情が反映された作品を豊富に提供し、自分自身を演じるという役割を真正面から引き受けたのではないか。
『慎吾ちゃんと歌喰いの巻』は、虚実入り乱れるエンタテインメントだからこそ描くことができる「表現者・香取慎吾」の最新形を、スクリーンで確認できる格好の機会となるはずだ。
『クソ野郎と美しき世界』
4月6日(金)2週間限定全国公開
出演:浅野忠信、満島真之介、馬場ふみか、稲垣吾郎/中島セナ、香取慎吾/尾野真千子、草彅剛/クソ野郎★ALL STARS
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