マンガの神様の苦い挫折 手塚治虫が描いた幻の打ち切り作品

<『どろろ』作品のあらすじ>
戦国の世を舞台に、体の48カ所を奪われた主人公「百鬼丸」とドロボウの少年「どろろ」が魔物退治の旅をする妖怪マンガ。

1967年より「週刊少年サンデー」で連載が開始され、1969年にはアニメ放送が開始された。


●『鉄腕アトム』や『ブラックジャック』を始め、数多くの名作を残した手塚治虫氏。今やマンガ界で神とあがめられる氏ではあるが、その作家人生は必ずしも順風に満ちていたわけではない。

たとえば1967年より「週刊少年サンデー」で連載が開始された『どろろ』は、輝かしい経歴を持つ手塚氏にとっての数少ない「挫折」を象徴する作品だ。

戦国の世を舞台に、体の48カ所を奪われた主人公「百鬼丸」とドロボウの少年「どろろ」が魔物退治の旅をするこの作品は、陰惨で暗いストーリーが少年誌の読者に受け入れられず、連載開始後わずか1年足らずで打ち切りとなった。

その後、アニメ放送の決定に伴って掲載誌を移して連載が再開されたものの、なぜか「すべての魔物を倒す」という主人公の目的は完遂されないまま終了。読者にとっては、なんとも歯切れの悪い幕切れを迎えた。

しかし、そんな謎多き打ち切り作品「どろろ」には、手塚氏の人間らしさを感じさせる意外なエピソードが残されている。

「手塚治虫漫画全集」第150巻のあとがきによると、なんでもこの作品は手塚氏の負けず嫌いな性格がきっかけで生まれた作品だったのだとか。

『どろろ』の連載が開始された1967年は、水木しげる氏による妖怪マンガ『墓場鬼太郎』が世間から注目を集めていた時期。負けん気の強い手塚氏は「妖怪マンガなら俺にだって描けるぞ!」と息巻いて『どろろ』の執筆に踏み切ったそうだ。

そんな背景を考えると、物語を完結せずに連載を終えたのは、負けず嫌いな手塚氏なりの水木氏への「敗北宣言」だったのかもしれない。

なお、『どろろ』は現在「ebookjapan」にて無料で立ち読みが可能。マンガの神様が描く一世一代の妖怪マンガは、打ち切り作品とは言え、読み応え十分の良作だ。

 

掲載誌が突如休刊……。理不尽すぎる打ち切りからの大逆転

<『トライガン』『トライガン・マキシマム』作品のあらすじ>
荒廃した砂漠の惑星を舞台に、伝説のガンマン「ヴァッシュ・ザ・スタンピード」が人外の宿敵たちと死闘を繰り広げるガンアクション漫画。

1998年よりアニメが放送され、深夜アニメの先駆けとして人気を集めた。2010年には劇場版アニメも公開されている。


●毎号楽しみにしていた作品が突如打ち切りになった時のショックは計り知れない。それはマンガ好きであれば、誰しも一度は経験する通過儀礼とも言えるだろう。

しかし、マンガを掲載している雑誌自体が休刊になった時の衝撃は、その遥か上を行く。

休刊の告知と挨拶は一切なし、連載作品はすべて強制的に打ち切り……。そんな理不尽過ぎる休刊に巻き込まれた作品のひとつが、内藤泰弘氏が手掛けるガンアクション漫画『トライガン』だ。

荒廃した砂漠の惑星を舞台に、伝説のガンマン「ヴァッシュ・ザ・スタンピード」が人外の宿敵たちと死闘を繰り広げる本作は、ストーリーが佳境を迎えた1997年1月、掲載誌「月刊キャプテン」の唐突な休刊により連載打ち切りとなってしまった。この強引な打ち切りには、読者はもちろん、作者自身も開いた口が塞がらなかったことだろう。

しかし、多くの読者からの支持が後押しし『トライガン』は掲載誌移籍という異例の形で連載を再開することが決定。同年の10月には『トライガン・マキシマム』と作品名をリニューアルして連載が開始された。

その後はテレビ東京でアニメ化が決まり、深夜アニメの先駆けとしてファンの裾野を拡大。連載終了後には劇場版が公開されるほどの人気作となったのだから驚きだ。

作中に登場する不死身の主人公ヴァッシュさながらの逆転劇を演じた本作は、少年時代の筆者にネバーギブアップの精神を叩き込んでくれた傑作だ。『トライガン』、『トライガン・マキシマム』の無料の立ち読みは「ebookjapan」から。