「持ち戻し」に生命保険金を受け取った人も含まれると知らず

それから3年半が経過したある日、幹夫さんは亡くなりました。

相続財産は東京23区内にある150坪の自宅をはじめ、経営をしていたアパートなど、相続財産額は4億円にも上るため、確実に相続税の申告が必要です。

相続税の申告をする場合、通常は現金や預貯金、不動産などの財産、借金や葬式費用などの債務をすべて洗い出し、過去5年分の通帳の入出金を確認します。

このとき、幹夫さんが亡くなる直前3年にわたって合計3回、500万円ずつ圭吾さんへ贈与していることが見つかりましたが、贈与税の申告をしており、さらに圭吾さんは法定相続人でないため、相続財産に持ち戻す必要はないはずです。

しかし、なぜか相続税の申告を請け負った税理士は「圭吾さんが受け取った生前贈与1,500万円を相続財産に持ち戻す必要がある」と言います。

「どうしてなのか?」と圭吾さんが尋ねると、圭吾さんが受取人となっている生命保険契約があるというのです。

幹夫さんは、相続税の対策セミナーで聞いた情報をそのまま実践していました。

麗華さんを受取人とする生命保険契約をした後、程なくして圭吾さんを受取人とする500万円の終身保険契約も結んでいたのです。

相続開始前3年以内の持ち戻しは、法定相続人に限ったものではありません。

法定相続人でなくても、遺贈によって財産を取得したり、被相続人が亡くなったことによってみなし相続財産である生命保険金を受け取ったりした人も含まれます。

幹夫さんは、そのことを知らなかったようでした。

方法を間違うとかえって税金の負担を増やすことに

今回のケースでは、圭吾さんへの生前贈与1,500万円と生命保険金500万円(みなし相続財産)の合計2,000万円に相続税が課されます。

圭吾さんは法定相続人ではないため、みなし相続財産の非課税枠の適用はなく、全額に相続税がかかることになります。

さらに、被相続人の一親等の血族または配偶者に該当しないため、相続税の2割加算の対象にもなります。

これまでに納めた贈与税額159万円は、相続税666万円から控除することができますが、500万円以上も税負担が増えています。

生前贈与も生命保険契約も、相続税の対策どころか、逆に納める税金が高くなってしまったのです。

一般的に「生前贈与をする」「生命保険契約をする」などの行為は相続税の対策になるといわれていますが、方法を間違うとかえって税金の負担を増やすことにもなりかねません。

残念ながら、幹夫さんは生命保険契約をするのではなく、圭吾さんと養子縁組をした方が相続税の対策になったのです。

財産を相続人以外へ渡すときや家族関係が変わるときは注意

今回ご紹介した子どもの配偶者への贈与だけでなく、養子縁組していない孫への贈与や生命保険契約も、生前贈与においてご相談が多い内容です。

3年以内の持ち戻しがないため、孫へ暦年贈与をしていたが、孫を生命保険の受取人にもしていて、孫が死亡保険金を受け取るといったケースです。

3年以内の持ち戻しは法定相続人のみに生じるものではなく、相続や遺贈によって財産を取得した人が、相続開始前3年以内(2024年からは7年以内)に被相続人から贈与により財産を取得したことがある場合です。

一方、法定相続人であっても、相続や遺贈によって財産を取得しなければ、贈与財産を持ち戻す必要はありません。

財産を法定相続人以外の孫などへ渡すときや、家族関係が変わるときなどは、出来る限り税理士などの専門家に相談することをおすすめします。

(物語は2023年10月1日現在の情報と税理士の実際の体験に基づいた創作です)

ベンチャーサポート相続税理士法人:高山弥生(税理士)

高山弥生(税理士)

1976年埼玉県出身。東京税理士会 京橋支部所属、登録番号116324。 一般企業に就職後、税理士事務所へ転職。「顧客にとって税目はない」をモットーに、専門用語をなるべく使わない、わかりやすい本音トークが好評。『税理士事務所スタッフは見た! ある資産家の相続』を始めとする高山先生の若手スタッフシリーズを執筆している。

【記事協力:相続会議
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