贈与契約書は面倒でも毎年作成しないとダメ

美恵子さん「以前、相続セミナーに参加したときに聞いたのですが、贈与契約書も作成しなくてはならないとか……」

税理士「はい!もらった、あげたという贈与の合意があることを示すためには、贈与契約書があった方がいいですね」

美恵子さん「毎年、贈与契約書を作成するのは面倒だなあと思って……」

税理士「贈与契約書を毎年作成することが面倒だからと、『今後10年にわたり、毎年100万円を贈与する』という内容の贈与契約書を作成してしまうと、一括で1,000万円を贈与するという契約内容とみなされて、贈与税が177万円も課税されますよ」

美恵子さん「それは困りますね、やっぱり贈与契約書は毎年作成しなきゃダメか……」

あげる側ともらう側の贈与の合意があることを示すために、贈与契約書の作成は大切ですが、贈与契約書の作成時には注意が必要です。

贈与者と受贈者の姓が同じであることを理由に同じ印鑑を使ったり、受贈者が自署せずに、贈与者が受贈者の署名をして筆跡が同じだったりした場合、せっかく贈与契約書を作っても合意があったという証明にはなりません。

また、贈与契約書を毎年作成するのが面倒だという理由で、「今後10年にわたり、毎年100万円を贈与する」という内容の契約書を作成すると、初めから1,000万円をあげる契約内容とみなされて、定期金に関する権利として一括で贈与税が課税されることになります。

定期金は、10年にわたって1,000万円を贈与すると約束した年に、1,000万円全額に対して贈与税が課税されます。

贈与税額は、1,000万円から非課税枠110万円を差し引いた890万円に税率を掛けた177万円となります(直系尊属から贈与を受けた場合の特例税率を適用した場合)。

定期金とみなされるような贈与契約書を作成していなくても、連年で贈与した金額が合計300万や500万円など切りのいい金額だった場合も注意が必要です。

相続税の税務調査のときに調査官から、たまたま毎年贈与をしていたのではなく、初めから決まった金額を分割で贈与したのでは?……と指摘される可能性があります。

相続財産への持ち戻し期間が順次7年に延長

美恵子さん「定期金とみなされないように気を付ければ、何年も暦年贈与を続けることで、相続財産を減らせますね?」

税理士「実は暦年贈与にも弱点があって、亡くなる前3年以内に渡した財産については、贈与したことにはならないんです」

美恵子さん「暦年贈与を開始したタイミングが遅いと、3年分は節税効果が薄くなるってこと?」

税理士「そうなんです!亡くなる直前3年以内の贈与は、相続財産に含めて(持ち戻して)相続税を計算する必要があります。

さらに税制改正で、2024年(令和6年)からは期間が順次3年から7年に延長され、今後は7年分さかのぼって贈与が相続財産に持ち戻されるとなりました(実際に影響が出るのは、2027年1月2日以降に発生する相続における生前贈与)。

そのため、10年にわたって1,000万円贈与したとしても、最終的に税金がかからない贈与財産は300万円だけになりかねないのです」

美恵子さん「えー!7年も贈与が無効になる可能性があるの!?落とし穴がたくさんあって、相続税対策は難しいわね」

税理士「そうなんですよ。お金を動かしたり、不動産を動かしたりするときには、やはり事前に税理士に相談していただきたいですね」

暦年贈与は、相続税の節税目的で、亡くなる直前に財産を他の人に移して相続税から逃れることを「亡くなる前3年以内の相続財産への持ち戻し計算」というルールで封じています。

さらに令和5年度改正により、この持ち戻し期間が3年から7年に大きく延長されました。暦年贈与の節税効果はかなり抑制されてしまいますが、その分「相続時精算課税制度」という制度が贈与する上で使いやすく見直されました。

税務署に目をつけられずに相続税を節税するためには、最新の税法をしっかりと知っておくことが不可欠です。餅は餅屋で、贈与や相続に関することは、ぜひ税理士などの専門家を頼りましょう。

(物語は2024年5月1日現在の情報と税理士の実際の体験に基づいた創作です)

ベンチャーサポート相続税理士法人(相続サポートセンター):古尾谷裕昭(税理士)

東京税理士会 京橋支部所属、登録番号:104851。1975年生まれ、東京都浅草出身。都内3カ所の税理士事務所勤務を経て2006年に税理士資格取得、税理士事務所開業。総合士業グループベンチャーサポートにて、2017年に相続を専門とするベンチャーサポート相続税理士法人を設立、代表税理士に就任。年間1,800件以上の相続税申告を行っている。10万人以上の登録者数を持つ相続YouTubeチャンネルを運営。「令和5年度版 プロが教える!失敗しない相続・贈与のすべて」など著書多数。

【記事協力:相続会議
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