「略奪愛」は、すでに恋人のいる人を好きになり自分が相手を奪うことをいいますが、実際に相手の交際が順調な場合はなかなか叶うものではありません。

奪う側にとっては、「交際中の人を置き去りにする」という罪悪感がつきまとう略奪愛は、精神的にも好意を抱き続けることそのものが難しくなりがちです。

一方で、奪われる側にも相応の事情があり、本当に略奪愛になるのかは、また別の問題。

略奪愛を成功させたある女性のリアルについて、ご紹介します。

好きになったのは彼女がいる人

舞さん(仮名/31歳)は、仕事を通じて知り合ったある男性への片思いで悩んでいました。

「打ち合わせが終わって雑談をしているときに彼女がいると知って、その時点でもう好きになりかけていたのですが、これは駄目だろうなと思っていました」

二年ほど彼氏がいない状態だったという舞さんは、男性の仕事熱心なところや細かい気配りができるところなど、尊敬の念も感じていたといいます。

「こんな人だから、彼女がいても当たり前だよね」と諦めようとした舞さんですが、プロジェクトで関わる限り接触が続き、皆でグループラインを作りそこでも彼と会話ができるため、なかなか思いを断ち切ることができずにいました。

「奪うことなんて、そのときはまったく頭にありませんでしたね」

と話すのは、「そもそも彼から自分への好意を感じていなかったこと」と、「略奪愛なんて上手くいくはずがないと思っていた」のと、自分が置かれている状況を冷静に見ることができていたからといえます。

それが変わったのは、あるときの男性の言葉からでした。

「浮気しても自分と別れない彼女」への苦悩を聞いて

「その日は彼とほかのメンバーと合わせて五人くらいで飲みに行って、酔った彼が『彼女が浮気したのに別れようとしない』と言い出して。

みんなびっくりして話を聞いてみたら、『そいつと別れたから俺とやり直したいと言われていて、どうするか考えているところ』と言っていました」

メンバーのひとりが、「彼女さん、図々しくない?」と真っ先に言ったのを今も覚えている舞さんは、どうして男性がきっぱりと別れることを決めないのかが気になります。

「別れたいと言ったんだけど、向こうが『考え直して』って嫌がって。反省しているのは分かるから、冷たくできない」

と、男性はため息をついたそうです。

男性とその彼女は一年ほどのお付き合いで、浮気した理由について「俺が仕事ばかりで放置されるのが寂しかったと言われた」と聞いた舞さんは、

「寂しいことと浮気することは、全然違うと思うけど」

と、思わず強い口調で言ってしまったそうです。

「そうだよね」とメンバーが頷いてくれて、男性は「わかっているのだけど、これで別れたら俺が心の狭い男とか思われそう」と、呟いたそうです。

「それは男の見栄なのかなと、そのときは思いました」

男性のなかにある罪悪感は、「確かにLINEでメッセージが来ても既読スルーで返事をしないときもあった」「電話で話しているときに寝落ちしてしまった」など、彼女に誠意を見せなかったことともわかります。

それでも、「寂しさからほかの男に走ったことを正当化する彼女」の側にも、自分勝手な気持ちが見えます。

「結局、ふたりとも悪かったねって、その場では彼を励まして終わりました」

ふたりの間に起こった変化

「彼の煮えきらない様子がどうしても気になりました」と話す舞さんは、みんなが別の話題に移っても、彼に「大変なんだね」と言葉をかけてしまったそうです。

「彼が、『さっきの言葉、すごく効いた』って言ってくれて。

彼女さんから、浮気したのは自分のせいだってずっと責められていたようで、何ていうか客観的に考えることができなくなっていたようでした」

それからぽつぽつと自分の気持ちを舞さんに打ち明けてくれた男性。

「彼女を好きかどうかわからない」「一緒のベッドに入ることができない」「でも連絡が来たら絶対に返事をしなければと焦る」と、混乱している様子が伝わりました。

「私なら、さっきと同じ言葉を彼女さんに言うと思う。

寂しい思いをさせたのは本当に申し訳ないけれど、だからといって浮気して当然とはならないし、今のあなたを受け入れることは難しいって」

男性にそう言うと、「それだ」と頷いてくれたといいます。

「とにかく彼がつらそうなのが私も悲しいというか、こんな事情があるとはまったく知らなかったので、励ましたいと思いましたね」

そんな舞さんの懸命さが伝わったのか、男性から「ありがとう」とお礼の言葉を言われ、飲み会が解散した後も「今日は変なことを話してごめん。舞さんの言葉にすごく救われた」と、あたたかいメッセージが届いたそうです。

次の週に顔を合わせたときも、「彼のほうから話しかけてくれて、恋愛以外のことですがたくさん話せました」と、距離が縮まったことを実感します。

決めるのは誰か

「本当は、このまま別れてほしいと思っていました」

と、舞さんはこのときの自分について振り返ります。

男性はその後彼女とどうなったかについて触れることはなく、舞さんからも聞けないままでしたが、

「金曜日の夜に、『彼女と会うのが嫌になって、残業って嘘をついた』とLINEでメッセージが飛んできて。

どう返せばいいのか、どうしてわざわざ私に言ってくるのかを考えたら、『それが正直な気持ちなら仕方ないよね』と、彼の気持ちに寄り添ったつもりです」

「そうだよね」と彼からは返信が来て終わりますが、次の日の土曜日に「電話したいのだけど、いま大丈夫ですか?」とふたたび彼からメッセージが届きます。

「何の用だろうってドキドキして、たぶん彼女さんのこととは思うけど、私に話してくれるのがうれしかったです」

「いいですよ」と返してかかってきた男性からの電話は、やはり彼女のことでした。

「いろいろ考えたけど、やっぱり別の男と仲良くやっていた彼女とこの先も付き合うなんて無理だし、別れようと思う」

なぜそれを舞さんに話したのか、後になって聞いてみたら「背中を押してくれたから、最後まで報告したくて」と、男性は返してくれたといいます。

「それで後悔しないのなら」と答えた舞さんは、

「自分にとって都合のいい後押しをしている自覚はありました。

でも、そこで『もう少し考えてみたら』と自分の気持ちに嘘をつくのも嫌だったし、そもそも彼の決意なら、私が口を出すことではないですよね」

と、彼の結末を見届ける気持ちだったといいます。

これも「略奪愛」?

一方で、「これは略奪愛になるのでは」と悩む部分も、舞さんにはありました。

「彼に、恋愛の意味で好かれているとははっきり思わなかったのですが、距離がだいぶ近付いているのは、わかっていました。

冷静に考えてみれば、好きな人に彼女と別れたらって後押しをしているのと同じで、これって自分は卑怯では、と悩みましたね……」

言い出したのは男性のほうであり、舞さんが別れを勧めたわけでは決してありません。

それでも、「彼女がいる人を好きになって、話を聞いているうちに彼が別れを決めた」流れが、「略奪愛」の言葉を想像させたといいます。

「飲み会のときに、彼に男の見栄を感じたのと同じで、私も人からそう思われたくなかったのだと思います」

と、自分の状態について不安がありました。

それからしばらくは、仕事で彼と会っても彼女とどうなったのか話題になることはなく、舞さんから尋ねることもしなかったそうです。

「もしかしたら『やっぱり付き合っていくことにした』って連絡が来るかもと、ずっと怖かったですね」

新しい道

「彼から『彼女と別れた』とメッセージをもらったときは、全身から力が抜けました。

まさかよかったねなんて言えないし、ひとまず『お疲れさま』と返したら『やっとすっきりした』って、彼から明るい返事がきてうれしかったです」

やり取りを続けているうちに、彼が彼女のことを話していたのは自分だけだったこと、飲み会のときの自分にいい印象を持ってくれたことなどがわかります。

「ああいう話って、男友達だとすぐ『別れたら』とか結論を出されてもやもやしていたんだけど、舞さんは俺の気持ちを考えてくれたから」

この言葉が、舞さんにとって本当にうれしかったといいます。

ひとりになった男性からは以前より連絡が来ることが増えて、週末にふたりきりで会う約束もできているそうです。

「これは略奪愛なのか」と悩んでいた舞さんは、彼女と別れてからまっすぐに自分と関わろうとしてくれる男性の姿を見て、

「私が奪ったのではなく、彼が決めたことなのだ」

と、改めて感じたといいます。

ふたりの仲が順調なら、そもそも男性の側に奪われるような隙間はないはずで、不安定になっていたところに登場したのが自分だったのだと、今は冷静に考えることができています。

略奪愛と聞くと、幸せなふたりを無理矢理に引き裂いて自分の身勝手な思いを通すというイメージがありますが、筆者の知るケースでは「すでに破綻が見えていた」場合が多く、それは奪う側とは無関係の事情です。

そのタイミングで出会った、そんなときに自分がいたからなど、偶然が重なることもあります。

略奪愛は奪う側だけの問題ではなく、関係が崩れる側にも相応のひび割れがある事実は、正しく見る必要があります。

好きな人に恋人がいて、たとえば不仲が続いていると知れば、奪うことを考えるのは誰だって起こり得ると思います。

そこで重要なのは相手の意思ですが、「奪われる」「乗り換える」のようなおかしな意識が生まれないつながりが、罪悪感を招かないといえます。

状況を冷静に見ること、そして自分の気持ちに嘘をつかないことも、幸せな恋愛では欠かせません。

プロフィール:37歳で出産、1児の母。 これまで多くの女性の悩みを聞いてきた実績を活かし、 復縁や不倫など、恋愛系コラムライターとして活躍中。「幸せは自分で決める」がモットーです。ブログ:Parallel Line