待機児童全国最多の東京都世田谷区で7月にオープンする「そらとにじのいえ保育園」が注目を集めています。待機児童を減らし、高齢化に伴う介護危機を救い、地域と子どもたちに笑顔と優しさを育む取り組みについて、園を運営する「まごころ介護」代表・榎本吉宏さんに聞きました。
東京・世田谷区の待機児童問題というのは現実として深刻
――東京都世田谷区全域で、主に身障者の方への訪問介護事業を展開している「まごころ介護」。榎本さんが大学ご卒業後すぐ創業され、昨冬に10周年を迎えられたとのことですが、今年7月には同じく世田谷区内に「そらとにじのいえ保育園」を開設されるとのこと。どうしていま新たに、保育事業を始めようと考えられたのでしょうか。
榎本吉宏さん(以下、榎本):世田谷区の待機児童問題というのは現実として深刻で、一般的な家庭の方で2歳まではなかなか保育園に預けるのが難しい状況です。
僕は4人の子を持つ父ですが、実はいまから5年ほど前、一人目が生まれた時に保育園に入れませんでした。
その時、社内で僕は現場の責任者で、妻は会計や総務の最終責任者をしていましたから、仕事を休むわけにもいかず・・・当然「じゃあ仕事と子育てをどう両立するか」という話になりました。
幸い僕の両親が都内の江東区に住んでいたので、一家で世田谷区から江東区に引っ越して、おじいちゃんおばあちゃんに子どもを見てもらいながら僕らは世田谷に通おうということになったのですが。
僕の場合は何とかなりましたけれども、社内にはシングルマザーで両親は遠方に住んでいるというスタッフもいて、それでも保育園に入れるかどうかギリギリでした。
もし子どもが待機児童になってしまったら復職できず、生活保護を受けることになるというケースもありました。
――保活激戦区とは聞いていましたが、それほどまでとは!
榎本:そのうえ「介護」というのはどうしても、同性でないと対応していないことがあるんです。身障者介護は同性介助が基本ですから、「まごころ介護」でも女性のご利用者さんの入浴やトイレ等の介助については、男性スタッフでは対応していません。
だからたとえ僕や、ほかの男性スタッフの手が空いていても、女性スタッフにしかできない仕事を代わりに担うことはできないんですね。
――女性スタッフが絶対に必要なのに、ママになったら復職できないとなれば、人のやり繰りにしても、もっといえば事業としても厳しいですよね・・・。
榎本:ところが、僕が困って頭を抱えていた時に「子どもを見てくれたら私が行くわよ!」って言ってくれる女性スタッフがいたんですよ。
それで僕がスタッフの子どもを預かって、多い時には5人を同時に見たりするようなことが増えてきました。
スタッフの子どもたちを引き連れて近所の公園で遊んだりしていたんですけど「これをずーっとやるワケにはいかないな」、「いっそのこと、保育園を作った方がいいんじゃないか」と考え始めた頃、内閣府の旗振りで「企業主導型保育事業」への助成がスタートしたと聞きまして。これなら採算を合わせてやっていけそうだ!と実行に移しました。
――「企業主導型保育事業」というのは?
榎本:平成28年度から始まったもので、簡単に言ってしまえば「会社などが主に従業員向けに作る保育園」です。
いわゆる「認可外」保育施設ですが、国から保育所の運営費や整備費の助成金が出るので会社として保育料の補助もしやすく、また会社の事業形態に合わせた保育が可能で、かつ保護者にもフルタイム勤務が求められるわけではないので、早朝や夜間、また短時間でのスポットも対応しやすくなります。
働きたいママたちに、産育休からの復帰や待機児童の問題を気にせず働いてもらえるようにできたらうれしいです。