「そらとにじのいえ保育園」イラストレーション全般を手掛けるのは新進イラストレーターのささきえりさん

待機児童と介護の担い手不足の問題を解消「そらとにじのいえ保育園」

――保活におびえざるを得ないプレママやママたちにとっては、願ってもない話ですね!

榎本:加えて介護事業者としてお話をさせていただければ、子どもが預けられないから働きたくても働けない、仕事に復帰できない人たちがいる一方で、介護の現場はものすごい「人材難」なんです。いまどこの介護業者でも、担い手不足の問題が非常に顕著になっています。

人手不足になると、採用のためのコストがどうしてもふくらみます。これが会社としてかなり負担になっていたので、実は保育事業に着手する前に、介護資格を取るための研修事業を始めました。

これは身障者の方の在宅介護に携われるようになる資格を取得する「重度訪問介護従業者養成研修」というもので、これまでに介護の現場に約130名の新人を送り出してきました。

研修事業を通じて、これから介護の仕事をしようとする人たちと知り合う機会を作って、収益を上げながら担い手とつながることができたわけです。

待機児童問題と共に、人が足りないがゆえに介護を受けなきゃいけないのに受けられていない方たちがいるという、これまた非常に深刻な状況も同時に解決してゆかなければ、という思いもあります。

現実の「介護」は、最低限必要なところにすら行き渡っていない!?

――介護が行き届いていない方たちが、たくさんいるということですか。具体的には、どのくらい深刻な状況なのでしょうか。

榎本:いままで一番ひどかった例をお話すると・・・

榎本:1日近く、水しか飲んでいない方がいらっしゃいました。

――1日近く、水だけ?

榎本:その方は身体が不自由なためにご自身でお食事などはできなくて、よその会社のヘルパーさんがいらっしゃる予定が何らかの理由で来られなくなって。なんとか「誰も来られないというから、来てもらえないかな」ってご連絡をいただいて、急きょ飛んで行きました。

1日近くお水しか飲めず、もちろん床ずれや、ほかの介助もまったくできずに丸1日ですから。

自分の身に置き換えてみてください。人がもう、普通に生活できなくなっちゃうレベルです。

いま、うちの会社だけではなく、介護事業者はちゃんと求人広告を出していても採用できないという状況が続いています。ご利用のお問い合わせはいっぱい入ってくるのに、全然受けきれていないのです。

僕の会社のスタッフはみんないい人なので、つい無理をしてでも対応しようとしちゃう。でもひとりひとりに口を酸っぱくして言っているのは「目の前で人が困っていたら助けたくなる気持ちは分かるけど、そこでやり過ぎちゃって自分が潰れちゃったら元も子もない」ということ。だから「それぞれが自分で続けられるペースでやってほしい」とお願いしています。

――身障者介護についていえば、自分だっていつ事故やケガ・病気で当事者になるか分かりません。高齢者介護であれば、長生きをすればほぼ確実にお世話にならなければならない。けれども現実の「介護」は、最低限必要なところにすら行き渡っていないのですね。

榎本:そこに応えていかないと、本当に近い将来、人が暮らせなくなると思います。

介護の人材難をお身内の方がすることでカバーしている側面もあって、お身内の方もご本人もしんどい思いをされていらっしゃいます。

だから「介護」という仕事を選んでもいいかな、と思っている方にはぜひ、その道を真剣に検討してもらいたいし、そのための環境も整えていかなければ。

「少子高齢化」の深刻度は、人口ピラミッドを見ればどんどん増していくことが明らかです。

にもかかわらず、かたや働きたいのに働けないという人がいて、その一方で必要なのにサービスを受けられていない人がいる。こんなおかしいことってあるのかな、と。

そういったこともあって「そらとにじのいえ保育園」では、介護の仕事に就いてみようというパパやママのお子さんを優先的にお預かりするようにして、待機児童問題と地域の介護の担い手不足の問題の解消に取り組んで、少しでも地域の福祉を豊かにするお手伝いができたら、と考えているのです。

そうやって「介護」にしても「待機児童問題」にしても、地域の福祉を豊かにして、みんなが暮らしやすい、外に出ていきやすい環境をつくっていかなければ、結局のところは「負のスパイラル」から抜けられないのではないでしょうか。

まとめ

「まごころ介護」が負のスパイラル打破を目指してトライを続ける、地域の福祉を豊かにする取り組みについては【後編】でお伝えします。

【取材協力】榎本 吉宏(えのもと よしひろ)さん

「私のおじいちゃん、おばあちゃんを安心して任せられる“孫心の介護”」をコンセプトに2007年、東京都世田谷区で「まごころ介護」を創業し、現在も代表を務める。

兼「そらとにじのいえ保育園」経営代表。「そらとにじのいえ保育園」は当初、区内に多く存在する空き家を活用する方向性でスタートしたため「一般財団法人世田谷トラストまちづくり」が主催する「空き家活用ゼミナール」プレゼンテーション審査にも参加し、企画の社会的意義が高く評価され最優秀団体にも選ばれている(その後、児童への最良の環境を求め新築物件で開業することになるが、この選考をきっかけに支援・賛同の輪が広がったとか)。

そのほかにも地域社会の福祉を豊かにする取り組みとして、区からの委託を受けて就労困難者の就労支援事業を行う「ぷらっとホーム世田谷」と「世田谷区立男女共同参画センターらぷらす」が共同で開催した「ママさん応援ジョブフェア」に出展し複数名を雇用する等、積極的な活動を展開している。プライベートでは4児のパパでもある。

15の春から中国とのお付き合いが始まり、四半世紀を経た不惑+。かの国について文章を書いたり絵を描いたり、翻訳をしたり。ウレぴあ総研では宮澤佐江ちゃんの連載「ミラチャイ」開始時に取材構成を担当。産育休の後、インバウンド、とりわけメディカルツーリズムに携わる一方で育児ネタも発信。小学生+双子(保育園児)の母。